すぐにつまずく、足元がおぼつかない...最近「歩く」ことで苦い経験が増えてきていませんか? その原因が加齢によって低下する「バランス能力」にあるというのは医師・安保雅博さんと理学療法士・中山恭秀さん。今回は、そんな二人の共著『家でも外でも「転ばない体」を2カ月でつくる!』(すばる舎)から、歩行時に転倒してしまう原因とバランス能力をアップできる簡単トレーニングの一部をお届けします。
2本足で立って歩く人間の姿勢はもともと不安定
人間の二足歩行は、もともと不安定です。
人間は四足歩行から進化したとされています。
多くの動物が四足歩行ですよね。
2本足はごく限られた動物で可能で、常に2本足での歩行が可能なのは人間だけです。
4本の足で体を支えるのは、非常に安定性があるのです。
椅子を思い浮かべればわかりやすいかと思います。
空間で物体を安定させるには、3点以上の支持が必要とされています。
支点が増えるほど、重心は空間で安定します。
3本でも安定性は高いです。
三輪車で転ぶことはなかなかないでしょう。
ところが、これが2本で支えるとなると、とたんに不安定になります。
さらに、人が「歩く」ときには、2本どころか1本の足で体を支えることになります。
人間の歩行は、専門的には「倒とうりつ立振り子モデル」という理論で説明されています。
倒立振り子モデル、少し難しいので簡単に説明させてください。
「振り子」とは、振り子時計の振り子です。
もしくは、催眠術師が目の前で5円玉にヒモをつけて揺らす、あの状態を振り子と言います。
この振り子をさかさまに、倒立させた状態が「倒立振り子」です。
人間の歩行は、この振り子と同じようなメカニズムなのです。
一歩足を踏み出すのが一番最初に起こること、と思われがちですが、実は「前に倒れる動き」が最初なのです。
意外じゃないですか?
「歩く」ことは「倒れる」ことで始まるのです。
前に倒れた後で、その動きに応じて足を出し、そして次の足を出すのです。
倒れないように、足を出す。
これを繰り返すのが、「歩く」という動作なのです。
そして、片方の足が地面についているときに、もう片方の足を前に出します。
つまり、安定して歩くということは、倒れながらその中で安定して片足立ちをして、着地するということの繰り返しなのです。
普段、私たちは「歩き方」など考えずに歩いていますが、無意識のうちに1本足で立っているのです。
歩くときも、もちろん両足が地面に接している瞬間がありますが、それは歩行の25%ほど。
ほとんどは片足立ちの状態です。
1本足となれば、さらに安定が揺らぐのは当然です。
歩行中に転ぶ方が多いというのもうなずけます。
また、立ってズボンを履くというのも、片足を上げますよね。
棚の上のものをとるときも、伸び上がってつま先立ちをしたりします。
これもやはり、すごく不安定な姿勢なのです。
「重心を安定させる」体全体の総合力
体全体の総合力とはいえ、人の体にはもともと重心を安定させる力、姿勢を保つ力があります。
これを「バランス能力」と呼びます。
バランス能力は総合的な力で、加齢とともにどなたも低下していきます。
一時期はやったフィットネス系のテレビゲームソフトに、重心を測定するゲームがありました。
COP(center of pressure:体の重心点)は常に動揺しているものなのですが、若いうちはその動揺が1平方センチメートルの中に納まる程度なのです。
2本の足で普通に立つのはもちろんのこと、つま先立ちをしたり、片足立ちをしたりしても、ぐらつかずにいられる時間が長いのです。
これがまさしく「バランス能力が高い」状態です。
けれども、年をとると、次第にこの動揺が大きくなることもわかっており、年齢の指標になっています。
「バランス能力の低下」を示すのです。