65歳以上の認知症患者は、なんと、およそ5人に1人! 人生100年と言われる現在、身体の寿命と同じように、脳の健康を延ばすことが人間の長生きの幸せなのではないでしょうか。そこで今回は、順天堂大学名誉教授で、アルツハイマー治療で日本トップの新井平伊先生による『脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法』(文藝春秋)より、「脳の健康」を保つ方法を連載形式でご紹介します。
【前回:実は歯周病が認知症の原因に!放っておくる負のスパイラルの可能性も】
まっさきに鍛えるべき筋肉は、太ももの前側
運動は、筋肉や関節の廃用性退化を防止することを第一の目的に行ないます。
したがって、息を止めて身体に強い負荷を一気にかける無酸素運動ではなく、呼吸しながらゆっくり行なう有酸素運動がお勧めです。
身体の糖質や脂肪が、酸素と一緒に消費されるからです。
50歳代より上の人なら、少し汗をかく程度で週に3回程度、30分くらいずつ行ないます。
真っ先に鍛えるべき筋肉は、太ももの前側にある大腿四頭筋です。
身体の中でも大きな筋肉なので、使わずにいると基礎代謝が落ちて太りやすくなったり、免疫力が低下する原因になります。
ここが弱くなるとひざ関節の曲げ伸ばしが辛くなり、逆に柔らかく保つことができればひざ痛を改善できます。
大腿四頭筋を鍛えるには、相撲の四股やスクワットが適しています。
加齢によって関節の可動域も狭くなるので、ストレッチで曲げ伸ばしするといいでしょう。
さびかけた機械に潤滑油を注すような効果があります。
お勧めする運動
〇 呼吸しながらの有酸素運動
〇 大腿四頭筋を鍛える
(相撲の四股、スクワット、貧乏ゆすり)
〇 速足でじわっと汗をかくくらいの散歩
〇 日常生活での運動の習慣
(階段の上り下り)
△ テレビを見ながらの5分間の体操でも、やるとやらないとでは大違い
※ デュアルタスク(二重課題)はより効果的になる
ダメな運動
× ちんたら散歩
× きついノルマを課したマシントレーニング
大切なのは、きつく感じない程度に留めることです。
運動の必要を痛感して取り掛かる人ほど、きついノルマを課しすぎます。
毎日ジムに通い、汗だくになりながら何種類ものマシンに挑んでも、長くは続かないものです。
軽すぎては意味がないと思いがちですが、もっと意味がないのは止めてしまうこと。
テレビを見ながらできる毎日5分の体操でも、やるとやらないとでは大違いです。
達成感より継続を追求すべきなのです。
周りに人がいない環境ならお勧めしたいのが、貧乏ゆすりです。
つま先を支点にした小刻みなひざの上げ下げが、太ももの運動になります。
逆にかかとを支点にして、つま先を上げ下げするのもいいです。
これなら、テレビを見ながらでもできます。
散歩を日課にするのもお勧めですが、ちんたら歩くだけでは筋肉への刺激になりません。
同じ時間を使うなら、やや速足でじわっと汗をかくくらいの負荷を身体全体にかけ、効果を高めるべきです。
生活の中で、なるべく動く習慣をつけることも必要です。
駅のエスカレーターを使わずに階段を上り下りするだけでも、筋肉や関節の萎縮防止になります。
WHOが2010年に発表した「健康のための身体活動に関する国際勧告」は、65歳以上の成人を対象に、次のような運動を勧めています。
1.週あたり150分の中強度有酸素運動、または、週あたり75分の高強度有酸素運動、または、同等の中〜高強度の運動を組み合わせた身体活動を行なう。
2.有酸素運動は1回につき、少なくとも10分以上続ける。
3.さらなる健康効果のため、中強度有酸素運動を週300分に増やす。または週150分の身体活動を、高強度の有酸素運動にする。または、同等の中〜高強度の身体活動を組み合わせて行なう。
4.この年齢群に属する高齢者で運動制限を伴う場合には、バランス能力を向上させ転倒を防ぐための身体活動を週3日以上行なう。
5.筋力トレーニングは週2回以上、大筋群を使うトレーニングをする。
6.健康状態によって、高齢者がこれらの推奨する身体活動を実施できない場合は、身体能力や健康状態の許す範囲で可能な限り活動的でいること。
【次回:認知症予防策として「ながら作業」が有効。楽しいことをプラスして相乗効果を】
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