65歳以上の認知症患者は、なんと、およそ5人に1人! 人生100年と言われる現在、身体の寿命と同じように、脳の健康を延ばすことが人間の長生きの幸せなのではないでしょうか。そこで今回は、順天堂大学名誉教授で、アルツハイマー治療で日本トップの新井平伊先生による『脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法』(文藝春秋)より、「脳の健康」を保つ方法を連載形式でご紹介します。
脳の老化に早く気づくには「変化」がキーワード
人間の身体は、老化から逃れられません。
自覚しやすい老化現象といえば、老眼と白髪(とくに鼻毛に混じる)です。
臓器だと、肝臓や腎臓の機能が悪化すれば、血液検査の数値で一目瞭然です。
脳の老化は、わかりにくいのが特徴です。
働きぶりが数値で示せないこと。
加えて、衰えを自動的に補完する機能がある程度まで自然にカバーしてしまうからです。
そのため、異常が顕在化するのに時間がかかります。
脳の老化に早めに気づくためのキーワードは、「変化」です。
それまでの暮らしぶりや仕事ぶりに比べて、違う「何か」を見逃さないことです。
たとえば、なぜかイライラする、眠れなくなる、外出がおっくうになる、趣味に楽しみを感じなくなる、ど忘れが増える、同じことを何度も聞くようになる、などのちょっとした違和感。
あるいは、頭痛や胃痛の場合もあります。
どういう変化が現れるのか、一概には言えません。
個人の人生や置かれた環境によって異なるので、ほかの人には当てはまらないからです。
変化を判断するには、学校や会社や家庭で担ってきた役割を、変わらずに果たせているかどうか確かめること。
これまでの生活と比較するのが、一番いい方法です。
そうした変化に真っ先に気づくのは、たいてい自分自身です。
ところが気づいたとしても、その分よけいに頑張ってしまったり、いずれ元に戻るだろうと軽く考えがち。
都合の悪いことは否認しようとするのが、人間の正常心理なのです。
やがて家族や職場の同僚など、周囲の人が気づきます。
その間、変化はさらなる老化へ進んでいるわけです。
脳が健康な状態から認知症へ至る間に、医学的には2つの段階があります。
まず「主観的認知機能低下(SCD=Subjective Cognitive Decline)」。
検査をしても認知機能の低下は見られないものの、右のような変化が生じたことを自覚している状態を言います。
その先が、認知機能の低下が確認できる「軽度認知障害(MCI=Mild Cognitive Impairment)」。
物忘れが主な症状ですが、日常生活に大きな支障はなく、認知症とまでは診断されない状態を指します。
ただし、年間にMCIの人の10〜15%がアルツハイマー病へ移行するとされるので、認知症の前段階と捉えることもできます。
日本には、認知症の人が460万人、MCIの人が400万人いるといわれます。
SCDとMCIを認知症へ進ませないためにどうすればいいかは、大きな課題です。
脳の老化・変化のポイント
なぜかイライラする
眠れなくなる
外出がおっくうになる
趣味に楽しみを感じなくなる
ど忘れが増える
同じことを何度も聞くようになる
頭痛・胃痛
認知症に至る2つの段階
主観的認知機能低下(SCD)
検査で認知機能の低下は見られないが、上のような変化の自覚がある状態
⬇
軽度認知障害(MCI)
物忘れが主な症状。日常生活に大きな支障はなく、認知症とまでは診断されない状態
⬇
MCIの10~15%がアルツハイマー病へ移行
【次回:生活習慣病の中でも、脳に最もよくない! 認知症になりやすい病気とは?】
「脳の状態を把握することは、全身の健康を把握することと同じです」と新井先生。いますぐできる頭のメンテナンス、18の方法を解説します