65歳以上の認知症患者は、なんと、およそ5人に1人! 人生100年と言われる現在、身体の寿命と同じように、脳の健康を延ばすことが人間の長生きの幸せなのではないでしょうか。そこで今回は、順天堂大学名誉教授で、アルツハイマー治療で日本トップの新井平伊先生による『脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法』(文藝春秋)より、「脳の健康」を保つ方法を連載形式でご紹介します。
【前回:なぜかイライラ、眠れない...ちょっとした違和感は「脳の老化」のせいかも?】
糖尿病になると、脳はさまざまな攻撃にさらされる
①糖尿病は認知症に2倍なりやすい
脳に最もよくないのが糖尿病であることは、認知症に2倍なりやすいというデータが裏付けています。
進行すると動脈硬化が進み、脳卒中や虚血性心疾患や合併症に至ります。
生活習慣病の中でも、人生を大きく左右する最大の曲者です。
身体が、エネルギー源であるブドウ糖を血液から細胞に取り込む際、インスリンというホルモンの助けが必要です。
食事をすると、血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)は一時的に高くなりますが、インスリンによってブドウ糖が細胞に吸収されるので、健康な人なら血糖値は元に戻ります。
ところが糖尿病になると、インスリンの分泌や効きが悪くなります。
そのため糖をうまく細胞に取り込めなくなり、血液中に糖があふれてしまうのが糖尿病です。
脳の神経細胞も糖をうまく吸収できなくなって、機能不全に陥ってしまいます。
すると神経ネットワークも含めてガス欠状態になり、ダメージが起こりやすくなるのです。
また、効きが悪くなった分を補おうとして、インスリンはたくさん分泌されます。
それに伴い、アミロイドβというタンパク質が脳の神経細胞に沈着するとの報告があります。
このアミロイドβこそ、アルツハイマー病を引き起こす物質です。
さらに、血糖の濃度が高いままだと、血管が傷つきます。
脳の血管が弱くなると、血管性認知症のリスクが高まります。
血管性認知症は、アルツハイマー病と合併する恐れもあります。
糖尿病で最も厄介なのは、合併症です。
失明の危険がある糖尿病網膜症、腎臓の機能が衰える糖尿病腎症、手足がしびれる糖尿病神経障害を、3大合併症と呼びます。
中でも恐ろしいのが糖尿病腎症です。
老廃物をろ過する腎臓の不調は、全身の不調に直結します。
注意すべき症状は乏尿(ぼうにょう)です。
尿が出なくなると、体外へ排出されるべき老廃物が身体に溜まってしまうからです。
腎不全が悪化すると、人工透析が必要になります。
血液から老廃物や余分な水分を取り除く治療を受けるため、ほぼ一日おきに半日ずつ横になっていなければいけません。
余命が短くなってしまうし、活動性が低下するので、脳の老化に直結します。
このように、糖尿病になると、脳はさまざまな攻撃にさらされるのです。
国内の糖尿病の患者数は1000万人、予備群も同じく1000万人と言われます。
症状としては、喉が渇く、よく水を飲む、尿の回数が増える、体重が減る、疲れやすくなる、などがありますが、血糖値がかなり高くならなければ顕在化しません。
気づかないまま糖尿病になっている人が、実はたくさんいるのです。
血液検査では単なる血糖値ではなく、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)という数値を見ることが大事です。
通常の血糖値は日ごとの食事内容で変化しますが、すべての血糖値に対する*糖化ヘモグロビンの割合を%で示すHbA1cは、過去1〜2カ月の血糖値を反映するからです。
*糖化ヘモグロビン:血液中のヘモグロビンにグルコース(ブドウ糖)が非酵素的に結合したもの。
また、血管の状態を調べます。
心電図で動脈硬化を見ることと、血液のドロドロ度を調べることが肝心です。
糖尿病の原因は、食べすぎ、お酒の飲みすぎ、間食や夜食などの不規則な食事、運動不足、肥満などの不摂生です。
遺伝的な要因もあります。
治療には専門的なアプローチが必要ですが、経口薬やインスリンが安易に処方されやすいのが現実です。
しかし、きちんと専門医に診てもらえば、悪化させずにすむ治療法が見つかります。
すでに糖尿病がある人は、HbA1cを正常範囲に戻す治療を受け、血糖値を適正な範囲にコントロールするための食事指導を守り、適切な運動を行なうことが必要です。
食後に散歩をすると、血中に酵素が出てきて、糖分を細胞が吸収してくれることもわかっています。
【次回:血管性認知症やアルツハイマーのリスクも。血管をもろくする脂質異常に注意】
「脳の状態を把握することは、全身の健康を把握することと同じです」と新井先生。いますぐできる頭のメンテナンス、18の方法を解説します