皆さん「鼻うがい」って聞いたことありますか? 医学博士・堀田修先生は「上咽頭のウイルスを洗い流してくれるこの『鼻うがい』こそ、ウイルスなどの感染予防の新定番になるはず」と言います。そこで、堀田先生の著書『ウイルスを寄せつけない! 痛くない鼻うがい』(KADOKAWA)より、鼻うがいのチカラや、「痛くない」「手軽な」やり方をご紹介します。
Q.鼻うがいに使う水は、一度煮沸する必要がありますか?
A.日本の水質基準は厳しいので、飲料水として使用可能な水道水であれば、そのまま使っても大丈夫と考えます。
多くの医師は「鼻うがいには一度煮沸した水を使いましょう」と説明すると思います。
その根拠というのは、鼻うがいで水中の微生物(アメーバ)が鼻から脳に入り、アメーバ性髄膜脳炎を発症したという報告があるからです(YoderJS2012)。
アメーバ性髄膜脳炎とは、フォーラーネグレリアというアメーバが鼻から脳に侵入することによって起こります。
発症すると嗅覚や味覚の変化、頭痛などの症状が出て、その後急激に錯乱状態となり、10日ほどで死に至る可能性のある病気です。
フォーラーネグレリアは、俗に「殺人アメーバ」ともいわれています。
ただし、これは水道水をそのまま飲むことができないような衛生状態の地域からの報告です。
フォーラーネグレリアは塩素消毒に弱い性質があるため、日本国内の水道水でフォーラーネグレリアに感染する可能性はないとされていますし、これまでに水道水を介した感染の報告はありません。
水道水の基準は国によってかなり異なります。
水道水がそのまま飲める国は、実は世界中で1割にも満たないのですが、日本はそのひとつです。
日本の水道水は世界的に見てもトップクラスの安全性を誇っており、塩素消毒もされています。
飲んで大丈夫な水は原則として鼻うがいに使っても良いと、私は考えています。
鼻うがいの洗浄液は、「塩素消毒した水」「もしくは一度煮沸した水」を使うべきとの海外の報告もあります(RietsemaWJ2016)。
ただし、水道管や貯水槽などの状態や環境にも左右される部分があるので、水道水が絶対に大丈夫だとは言い切れません。
以前、水道局に「水道水をそのまま鼻うがいに使用して良いか」と問い合わせたところ、未回答であったとの話も聞いています。
「飲み水」の安全基準はありますが、「鼻うがい水」の安全基準はないので、これは仕方のないことだと思います。
そういう私も、実は2019年までは「鼻うがい」には一度煮沸した水道水の使用をすすめていました。
ところが新型コロナウイルス感染症の登場で状況が変わりました。
その日に吸い込んで鼻やのどに付着したウイルスなどを洗い流すための「毎日手軽にできる鼻うがい」が必要になったのです。
また、換気が悪くて空気が滞留している場所や、人が密集してソーシャルディスタンスが保てないような状況に置かれた後、あるいは診療の処置に伴って患者さんから飛沫を浴びたときなどに、「すぐにできる鼻うがい」が欠かせなくなりました。
つまり、水道水をいったん沸騰させる「手間」と「時間」をかける悠長な状況ではなくなったのです。
そのようなことが理由で、現在では鼻うがいを「毎日する」「必要なときにすぐにする」ことを重要視して、私は煮沸なしの水道水を使用しています。
もちろん、ミネラルウォーターでも問題ないでしょう。
Q.鼻うがいは1日に何回行えば良いですか?
A.1日2回、朝夕が原則ですが、回数に制限はありません。
「鼻うがいをしすぎると鼻粘膜表面のムチンや免疫グロブリンA(IgA)が洗い流されてしまうから良くない」というもっともらしい理屈はありますが、実際に鼻うがいの際の排出液に含まれるムチンやIgAを測定した研究報告はありません。
一方、鼻うがいで繊毛機能の改善がみられたとの報告はあります。
そして、何より実学では紹介した、エジンバラ大学の研究チームがウイルス性の風邪(急性上気道炎)の患者に対して行った研究で、鼻うがいを1日に6回実施したところ症状の改善とウイルス量の低下という結果が得られています。
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こうしたことから、鼻うがいは症状に応じて何回行っても良いと私は考えています。
ちなみに、インド伝承医学(アーユルヴェーダ)では「鼻は脳の入り口である」といわれていて、顔の中心にある鼻の調子が悪ければ脳にも悪影響が及ぶとされています。
夜の間に全身の毒素が口や鼻にたまるという考えがあり、朝に身を清める浄化手段の一環として、水差しのようなネティポットという器具を用いた鼻うがい「ジャラ・ネティ」を行います。
インドのアーユルヴェーダ式鼻うがい
毎朝、身を清める方法として水差しのようなネティポットで鼻うがいを行う。
この方法は1500年以上の歴史があるそうです。
簡単鼻うがいで、感染症からしっかり身を守れる方法を、6章にわたって分かりやすく解説