東洋医学を少し知ると食の考え方に健康を取り入れられる。酸味、苦味、甘味、辛味、塩味の作用とは?

冬に入り、寒さから体調を崩したりして、どうしても胃腸が弱りがちになりやすいです。そんなときは日本流の薬膳ごはんを取り入れてはいかがでしょうか? 薬膳料理の大家・追立久夫さんのアイデアをもとに日常的な料理に落とし込んでいるのが、人気レストラン「然の膳」。その「然の膳」の著書『大人気レストラン「然の膳」の世界一美味しいカンタン薬膳ごはん』より、薬膳の基本から、中国と日本の薬膳料理の違い、かける薬膳の考え方や作り方など家庭でも気軽に実践できる「薬膳ごはん」情報をご紹介します。

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病気になる前に体質を変えるのが薬膳

もっと薬膳のことを知りたいと思ったあなたのために、より専門的な視点で詳しく薬膳を解説します。

薬膳の考え方は、東洋医学の中医学に基づきます。

東洋医学と現代の西洋医学の大きな違いは、私たちの体にどうはたらきかけて健康を維持するか。

人間の体を木にたとえると、木を支える土台をつくるのが食事や睡眠、運動などです。

健康なときは、この土台がしっかりしているので、栄養が体のすみずみまで行きわたり、枝も葉も、そこに咲く花も、できる実もいきいきとしています。

ところが、不摂生が続いたり、食事のバランスが崩れたり、不規則な生活が続いたりすると、土台が弱くなってきます。

そうなると栄養が十分に行きわたらなくなります。

そして、葉っぱが傷んできたり、花が咲かなくなったり、実がならなくなったりします。

このとき、傷んできた葉っぱに着目してはたらきかけるのが西洋医学。

弱った土台に着目してはたらきかけるのが東洋医学。

傷んだ葉っぱがきれいになれば見た目はよくなりますが、土台が弱っているのですから、しばらくすると、また葉っぱは傷んできます。

弱っている土台を強くする、要するに、弱っている体を根本から改善しようとするのが、東洋医学なのです。

葉っぱが傷んでいる状態は、人間でいうと、すでに病気を発症している状態で、土台はその前から弱りはじめています。

そのシグナルも、実は体にあらわれています。

病気というわけではないけれど、なんとなく体がだるいとか、重いとか、疲れがとれないとかありますよね。

それを、東洋医学では「未病」といい、病気にならない未病のうちに健康な体を取り戻すのが、東洋医学のはたらきかけ。

そして、それを食で実現するのが薬膳なのです。

薬膳の組み合わせのヒントは陰陽五行説

東洋医学では、気、血、水(津液)という人の体を支える要素があります。

気は、生きるためのエネルギーで、生命活動を維持する機能があります。

気には両親からもらう「先天の気」と、飲食物と呼吸から得られる「後天の気」があり、気が不足したり(気虚)、動きが停滞したり(気滞)すると、疲れやすくなったり、胸がつまったり、お腹が張るようになったりします。

血は全身をめぐる栄養分で、不足したり(血虚)、停滞したり(瘀血)すると、脈が弱くなったり、動悸を感じるようになったり、顔色が悪くなったりします。

水は、体の中の血液以外のすべての水分で、不足したり(陰虚)、停滞したり(水滞)すると、気圧の変化で頭痛が起きたり、のどが渇いたり、むくんできたりします。

この3つの要素の量とはたらきがバランスがよいのが、健康な状態。

この要素のひとつでも乱れると体のあちこちに不調が起こるようになります。

気、血、水は、陰と陽のバランスが悪くなると乱れます。

東洋医学では、陰と陽のバランスがよいと病気になりにくく、バランスが崩れて陰か陽かどちらかが弱くなると病気になりやすくなると考えます。

陰陽論は紀元前3000年頃からある古代中国の思想で、天と地、昼と夜、夏と冬、熱いと寒いというように、世の中のものはすべて陰と陽の2つで成り立っているという考え方です。

この陰と陽と「五行」を組み合わせたのが、陰陽五行説。

世の中のすべては陰と陽の性質をもち、木、火、土、金、水で分類されるという考え方です。

そして、この5つは、木は燃えて火を生み、火は燃えつきると灰になって土になり、というように隣り合う関係は相性がよく(相生の関係)、水は火を消し、木は土の養分を奪うというように、向かい合う関係は相手を抑制し、コントロールするはたらき(相克の関係)があります。

この関係性が、薬膳のヒントになります。

自然の食材は体への作用によって5つに分類される

自然界にある食材も、五行説によって5つに分けられます。

それが「五味」という分類で、酸、苦、甘、辛、鹹。

これは、味覚ではなく、体への作用によって分類されたものです。

それぞれの主な作用を紹介すると次のようになります。

酸味...ひきしめたり、体の外に出してしまうものを止める作用
苦味...体内の水気をとったり、熱を鎮める作用
甘味...やわらげたり、潤いを与えたり、元気をつけたりする作用
辛味...気をめぐらせたり、血をめぐらせたりする作用
鹹味(塩味)...かたいものをやわらかくしたり、排泄する作用

具体的な食材をあげるならば、

酸味...レモン、梅、ざくろ、ブルーベリーなど
苦味...ゴーヤ、みょうが、ゆりねなど
甘味...かぼちゃ、スイカ、とうもろこし、はちみつなど
辛味...しょうが、ねぎ、にんにく、とうがらしなど
塩味...昆布、カニ、牡蠣、えびなど

酸、苦、甘、辛、鹹、それぞれの体への作用は、科学的にも少しずつ解明されてきました。

酸味の成分のひとつである梅に含まれるピルビン酸は、下痢止めに効果があることがわかっています。

身がもろくくずれやすいさばを酢でしめる「しめさば」は、酸味のもつ筋肉や内臓をひきしめる作用を活かした調理法です。

苦味の食材のひとつであるゴーヤは、熱を鎮める効果があるから沖縄で穫れ、夏に食べる野菜として知られています。

甘味の成分であるブドウ糖や果糖は、体に入るとすばやく吸収され、エネルギーに変換されます。

とうがらしに含まれるカプサイシンという辛味成分が、血行促進、血流改善に効果があることはよく知られています。

塩味のやわらかくする作用を活用したのが、鶏むね肉や脂肪分の少ない豚肉などをやわらかくするための塩漬けです。

五味にも、木、火、土、金、水と同じような関係性が成立し、それが薬膳の組み合わせのベースになります。

その基本となるのが、「二味配合」。

五行で相克の関係にある食材を組み合わせることで体への効能を調和させるだけでなく、味の調節もできるようになります。

たとえば、酢の物(酸味)に少し砂糖(甘味)を加えてマイルドにするとか、強い甘味に塩を加えるとか(隠し塩)、大根おろし(辛味)に酢(酸味)を加えて辛味をマイルドにするとか......。

料理の隠し技的なことも、実は薬膳の考え方からくるものなのです。

五味の関係性

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日本の薬膳ごはんをコンセプトに薬膳の基本から考え方、作り方まで全4章にわたって解説。アイデアレシピ60品付き

 

然の膳(ぜんのぜん)
体に良くておいしい食事をコンセプトに全国展開するレストラン。「おいしくなさそう」という薬膳のイメージを覆すメニューが評判に。メニューは日本における薬膳料理の大家、追立久夫氏のアイデアをもとに日常的な料理に落とし込んでおり、食べやすさと中医学の効能を両立。

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『大人気レストラン「然の膳」の世界一美味しいカンタン薬膳ごはん』

(然の膳/アスコム)

中国と日本の薬膳は考え方こそ同じですが、料理は異なるものです。理由は、日本で穫れる食材を使って、日本人の体質に合わせて考えられたものだからです。日本の四季折々の食材は体を整えてくれる役割があり、それを上手に取り入れようというのが「日本の薬膳」だそうです。日本における薬膳料理の大家・追立久夫さんのアイデアをもとにレストラン展開をしている「然の膳」が、家庭でも気軽にできる「薬膳ごはん」の考え方や作り方を届けている一冊です。薬膳ごはんのアイデアレシピも60品を盛り込んでいます。

※この記事は『大人気レストラン「然の膳」の世界一美味しいカンタン薬膳ごはん』(然の膳/アスコム)からの抜粋です。

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