「心不全」という病気をご存じでしょうか? 心臓の働きが不十分なために起こる体の状態の総称です。「『心不全』になると、急に心臓が止まってしまうと思っていませんか? 実は、じわじわと心臓の働きが悪くなり、命を縮めていくケースがほとんどです」と言う北里大学北里研究所病院の猪又孝元(いのまた・たかゆき)先生に、「慢性心不全の発見・治療」についてお聞きしました。
心不全と診断されたらすぐに治療を開始
〝かくれ心不全〟から、〝心不全〟と診断されるステージCに進行してしまったら、一日も早く治療を始めなくてはなりません。
そのために早期発見が重要となります。
心不全の主な症状は、加齢で起こる不調と区別しづらいですが、見極めのポイントがあります。
「代表的な症状である息切れは、日中の動作で息が切れるのに加え、横になっていると息苦しく体を起こすと楽になる『起坐呼吸』が見られたら、危険なサインです。むくみは、夕方に起こるものは心配いりませんが、朝起きたときに足がパンパンだったら注意すべきといえます。あわせて、首の血管がふくらんだり、ゆれているように見える症状が出たら、心臓の働きが低下していると考えられます」(猪又先生)
さらに心臓の状態を〝見える化〟できる数値・BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)も注目されています。
血液検査ですぐに分かるので、気になる症状があったら、循環器の専門医がいる病院で検査をしてもらいましょう。
心不全「3つの発見ポイント」
1.「首のはれ・ゆれ」
首の血管がふくらむ「頸静脈怒張(けいじょうみゃくどちょう)」は、心臓に戻れない血液があふれ、首の血管にたまることで起こります。ふくらみとともに、首筋の皮膚に波動のようなゆれが見えるのも特徴です。
2.「平常時の息切れ」
息苦しさで目が覚める発作性夜間呼吸困難が現れ、次に日中の動作でも呼吸困難が。横になると息苦しく、逆に座ると楽な「起坐呼吸」が見られたら、かなり症状が進行している証拠。
3.「BNPが100以上」
【何の数値?】
心臓を守るために分泌されるホルモン。機能が低下するほど、負荷が大きくなり、数値(分泌量)も上がります。
【どこで測れる?】
一般的な健康診断では項目にありませんが、通常の採血で分かる数値。循環器内科で検査してもらいましょう。
【基準値は?】
100~:心不全の可能性あり
200~:心不全がかなり疑わしい
心不全の「検査」
①問診・心電図検査・胸部エックス線検査
問診では症状や持病、心臓病の家族歴などを。心電図で心臓の拍動、胸部エックス線で心臓や肺の状態を調べます。
②血液検査
画像検査で心臓に異常があれば、血液検査が必要になります。BNPが高い場合、さらにくわしく調べていきます。
③心臓超音波検査(心エコー)
心臓の形や働きを見る検査。あらゆる心疾患の診断に役立ち、心不全の重症度(ステージ)も見ることができます。
④そのほか...
必要に応じて、心臓MRI検査や心臓CT検査、心臓核医学検査、心臓カテーテル検査などのくわしい画像検査を。さらに、運動や薬剤で意図的に心臓に負荷をかけた状態で心機能を調べることもあります。
「心不全の治療は薬が主軸です。むくみや呼吸困難などの症状を抑える、心臓の働きを助ける、心臓を保護するなどの薬が使われます。主にステージC、Dで用いられますが、ステージBでも予防の目的で使われることもあります。ただし、心不全の薬は、あくまで症状をやわらげたり、進行を食い止めるためのもので、完治は望めません。現状では、いったん悪くなった心臓は元に戻すことはできないため、ステージDまで進むと、人工心臓が唯一の治療法となるケースもあります」
薬に頼りきりにならず、セルフケアにも積極的に取り組むことが大事です。
心不全を招いてしまったこれまでの習慣を改めるチャンスと考え、心機一転〝心臓にやさしい生活〟を始めましょう。
心不全の「薬」
●心不全の症状を緩和する薬
【利尿薬】
余分な水分や塩分を尿として排出させることで、むくみや呼吸困難などの症状を改善。
●心臓を助ける薬
【強心薬】
収縮不全の場合、心臓の収縮を強くして心臓の機能を助け、症状を緩和。
【ジギタリス】
心臓の収縮を強くすることで、頻脈を改善、脈をととのえる。
●心臓を守る薬
【ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)】
【ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)】
血管の抵抗をゆるめ、血圧を下げることで心臓の負担を軽減する。
【抗アルドステロン薬(MRA)】
血管をゆるめて血圧を下げ、心臓の筋肉の拡大や線維化を防ぐ。
【β(ベータ)遮断薬】
心臓に伝わる交感神経の信号を遮断し、過剰な心臓の活動を抑え、心臓の負担を軽減、脈をととのえる。
取材・文/湊 香奈子 イラスト/角 裕美