「かくれ心不全」という言葉を聞いたことがありますか? 「心不全」は心臓の働きが不十分なために、じわじわ命を縮める病気。「かくれ心不全」は、心不全のリスクはあるものの、自覚症状が出ていない「心不全予備軍」のことで、日本人に急増しているそうなんです。そこで、北里大学北里研究所病院の猪又孝元(いのまた・たかゆき)先生に、「心臓"健康度"のチェック方法」について教えていただきました。
加齢だけでも心不全のリスクに
心臓の内部は4つの部屋に分かれ、それぞれの入り口にある〝弁〟がフタの役目をし、血液の逆流を防ぐ仕組みとなっています。
「全身をめぐって心臓へ戻った血液は、大静脈から右心房に入り、右心室から肺へ送られます。肺で酸素を補給した後、左心房から左心室、さらに大動脈を通って全身へ向けて送り出されます。心臓は広がったときに血液を取り込み、縮む際に血液を押し出すポンプ機能で、血液を体のすみずみまで循環させています」(猪又先生)
心臓の筋肉である心筋が厚く、硬くなってポンプ機能が低下し、十分に広がったり、縮んだりできなくなるのが心不全です。
心不全の2大症状
息切れ
心臓が縮んで血液を送り出す機能が低下、体に必要な酸素や栄養が足りなくなって日常動作でも息が切れたり、疲れやすくなります。
むくみ
心臓が広がらず取り込めなかった血液が、血管にあふれ、たまってしまうことで、むくみが発生。心臓から遠い足によく見られます。
広がる力、縮む力のどちらが衰えるかで心不全のタイプが分かれます。
最近は広がりが悪くなる「拡張不全」が急増。
これは加齢が主な原因。
たとえ心臓に持病がなくても、年をとるほど心不全になりやすくなるのです。
心不全の2つのタイプ
1.広がらない拡張不全
収縮力は正常なのに、心筋が硬くなり、心臓が広がりづらくなります。加齢とともに進行するのが特徴です。
2.縮まない収縮不全
心臓を動かす筋肉(心筋)の収縮力が衰え、血液が十分に送り出せない状態。心臓弁膜症が原因になることも。
「心臓は生命活動を支える要であり、命の源なので、心臓に何かあれば、体中で助ける構造になっています。心臓の働きが衰えても、ほかの臓器がやりくりするので、症状が〝かくれ〟てしまうわけです。カバーしきれなくなると、いきなり症状が現れるのですが、そのときには、すでに心臓は衰弱し、ステージC、Dまで悪化しているケースもあります」
心臓の"健康度"チェックリスト
①健康診断やかかりつけ医から、以下のようなことを言われたことがありますか?
□ 血圧が高いと言われた、もしくは治療中である
□ 血糖値が高いと言われた、もしくは治療中である
□ 腎臓が悪いと言われた、もしくは治療中である
□ 心臓が悪いと言われた、もしくは治療中である
□ 肺が悪いと言われた、もしくは治療中である
※ただし、気管支喘息は除く
②以下のような症状がありますか?
□ 階段を上るのがつらい
□ 足や顔のむくみがひどくなった
□ 夜にせきが出る
□ 寝ていると息苦しさを感じ、目が覚めることがある
□ 横になると息苦しさを感じ、起きていると少し楽である
⇒①②それぞれでチェックが2つ以上付いた人は、心臓の専門医のいる循環器内科に相談しましょう。
チェックリスト監修:猪又孝元
上の「心臓の"健康度"チェックリスト」にも、心臓とは関係がなさそうな臓器の名称や症状の項目がありますが、心臓はほかの臓器や機能と密接に関わっているため、その影響が全身におよびます。
心臓だけでなく、全身で起きる心不全のサインに気付き、早期発見・予防することが大事なのです。
取材・文/湊 香奈子 イラスト/角 裕美