「食事中にむせやすくなった」「せき払いが増えた」と感じる人は、のどの力=「飲み込み力」が衰え始めたサインかもしれません。そこで、神鋼記念病院耳鼻咽喉科科長の浦長瀬昌宏(うらながせ・あつひろ)先生に、「むせ」の原因や予防法について教えていただきました。
のどの衰えは40代から。気づかないうちに進行
のどの筋力は40代から衰え始め、60代からは嚥下機能も低下します。
のどは、食べ物の通り道(食道)と空気の通り道(気管)が交差していて、飲み込む瞬間に口やのどの筋肉や神経が働き、飲食物を食道に送り込みます(嚥下反射)。
しかし、加齢などでのどの筋力や感覚が衰えると、口やのどの働きが低下したり、嚥下反射のタイミングがずれたりして、食べ物や唾液が気管に入り込み、むせやすくなります。
気管から入った異物が原因で、肺に侵入した細菌が炎症を起こす「誤嚥性肺炎」や、異物が気管に入り呼吸ができなくなる「窒息」で命を落とす危険もあります。
重症化すると、口から飲食物を摂れなくなり、栄養不足から全身の体力が失われ、ついには寝たきりになってしまうこともあります。
飲み込むときに使う筋肉はどこにある?
嚥下筋(通称:ごっくん筋)は顎の下にあり、飲み込むときに固くなって、のど仏のある喉頭を引き上げる。
「飲み込む」ってどういうこと?
普段、何げなく行っている飲み込む動作。「飲み込み力」をつけるためには、まずは「飲み込む」仕組みを理解することが大切です。
●食べ物が口の中にないとき
空気はのどから気管を通る
●飲み込むとき
①飲み込む瞬間、喉頭が舌の根元まで上がる
②喉頭蓋が下向きに倒れ、声門に蓋をして気管をふさぐ
③食道の入り口が広がる
手遅れになる前に「飲み込み力」を鍛えて
普段、嚥下を意識して行っている人はほとんどいません。
そのため「飲み込み力」が弱まってきても気づきにくく、飲み込みづらさを自覚したときにはすでに嚥下機能の低下がかなり進んでいることが少なくありません。
その頃には体力や認知の低下が進んでいることも多く、一度低下した機能を元通りに回復させるのは容易ではありません。
手遅れになる前に「飲み込み力」を鍛えておくことが大切です。
まずは飲み込む動作を頭と体で理解することから始めます。
水を飲みながら、どの筋肉を使って、のどがどう動いているかを確認します。
その後、のど仏を上げるトレーニング「のどトレ」に取り組みます。
飲み込んだ後にのど仏を上げたまま、顎の下に力を入れた状態を5秒間キープします。
コツが必要ですが、上の図を参照しながらやってみてください。
飲み込む動作を体できちんと理解できれば、むせることもなくなります。
「飲み込むこと」は、生きるために欠かせません。
食べる3つの動作「摂食(口の中に食べ物を入れる)」「咀嚼(食べ物を飲み込みやすく整える)」「嚥下(飲み込む)」のうち、誰も手伝うことができないのは、飲み込むことです。
だからこそ、生涯自分の力で食べられるように、いまから鍛えておくことが大切です。
むせない飲み込み方
むせずに飲み込むポイントは次の①~③の通り。これらを意識的に強く行うと、のど仏を上げて止めることができる。
①息をこらえる
②顎の下の筋肉に力を入れて、のど仏をしっかり上げる
③舌を口の中の上壁にくっつける
「のどトレ」で飲み込み力を鍛える!
多めの水を飲みながら、のど仏を上げて止める「のどトレ」で、飲み込み力を強化します。1日3回、5秒キープを目標に。
多めの水を口にためてから、力を入れてゴクッと飲み込む。飲み込んだら、のど仏を上げたまま5秒間止める。慣れると水を飲まなくても行えるようになる。
飲み込むときに、指3本を横にして首の前に当てると、のど仏の動きが分かりやすい。
※嚥下トレーニング協会のホームページもご参照ください。
あなたの飲み込み力はどれくらい?
□食事中にむせやすい
□たんがのどによくたまる
□唾液が多いと感じるようになった
□声の感じが変わってきた
□のどが詰まるような感じがする
□せき払いが増えた
□飲み込むときに引っかかる感じがする
□液体の方が固形物よりも飲み込みにくい
□寝ているときに、せきをするようになった
□食べ物や飲み物が鼻に流れてくる
※2つ以上チェックがついたら、飲み込み力が弱っているかもしれません。今日から「のどトレ」で飲み込み力を鍛えましょう。
●まとめ
[主な原因]
・異物が気管に入る「誤嚥」がむせの原因
・のどの筋力の低下によって、のど仏がある「喉頭」がしっかりと動かない
・のどの感覚が衰えて、「喉頭」が動くタイミングがずれる
[主な予防法]
・飲み込む動作を繰り返して、むせない飲み込み方を覚える
・のど仏を力強く動かして、嚥下筋(ごっくん筋)を鍛える
取材・文/古谷玲子(デコ) イラスト/片岡圭子