新型コロナウイルスによる自粛生活によって、運動不足の方も多いですよね。そんな「withコロナ」の時代にオススメと再評価されているのが、医学博士の故・田中宏暁さんが提唱された「3つの運動」。自宅で簡単にできる「足踏み」、台を使った「スローステップ」、さらに無理のないペースの「スロージョギング」です。田中さんの著書『免疫の働きUP! 4秒で1段昇り降り スローステップ運動』(KADOKAWA)より、手軽に健康な身体づくりができる「スローステップ運動」についてご紹介します。
身体を動かすことで脳細胞は増える
昔に比べて記憶力が衰えてきた。
ものや人の名前が出てこないことが多くなった。
ある程度の年齢になると、脳の老化は誰しもが気になるところです。
脳の細胞は幼児の頃に急速に成長し、成人以降はその数が一方通行で減っていく。
脳科学の世界では、長年そう考えられていました。
ところが1980年代に脳細胞を新生させるタンパク質が発見され、現在では大人になっても新しい脳細胞が増えることが分かっています。
脳細胞は減る一方ではなく、ある条件が加われば減りもするし、増えることもあるというのが、現在の常識です。
脳細胞を増やす条件として、唯一確実とされているのは、身体を動かすこと。
とくにジョギングのような有酸素運動を定期的に行うことで、脳の細胞が新たに生み出されることが分かってきたのです。
スローステップ、スロージョギングを行うことで脳が活性化!
細胞が増える海馬と前頭前野とは
ジョギングをはじめとする有酸素運動で脳細胞が増える。
では、具体的に脳のどの部分の細胞が増えているのでしょうか。
今のところ分かっているのが、脳の海馬と前頭前野という部分です。
海馬は新しく獲得した情報をいったん保存して、それを長期的な記憶として留めるかどうかを判断する部位と考えられています。
つまり、この部分の働きが衰えてくると、新しいものごとがなかなか覚えられないということになります。
アルツハイマー病患者では、この海馬の容積が小さいことが分かっています。
前頭前野は文字通り、脳の前の部分にあり、ものごとを論理的に考えたり、意思決定をしたり、感情をコントロールしたり、意欲を生み出したりと、脳の中でも最も高度な活動を受け持っています。
加齢に伴い、この部分は萎縮していくといわれています。
脳の海馬と前頭前野の位置と働き
【前頭前野】
脳の大脳皮質の前側に当たる部分。思考や意欲といった人間的な脳の活動を一手に引き受ける、脳のコントロールタワー。
【海馬】
大脳辺縁系という場所にあるタツノオトシゴに似た形の部位。記憶や感情に関わり、とくに新たな情報の整理整頓を司る。
走ることで海馬の細胞数が増える!
運動で海馬の細胞の数が増えることは、20年以上前、すでにネズミなどの動物実験で証明されていました。
下のグラフがそれです。
ネズミをランニングするグループとランニングしないグループとに分けて経過を観察すると、ランニング・グループの方が海馬の細胞の数が2倍以上増えたという結果です。
学習能力を比較すると、やはりランニング・グループの方が能力が高かったことが報告されています。
認知症の多くを占めるアルツハイマー病は、海馬の細胞に特殊なタンパク質が溜まることで細胞が死滅し、発症するといわれています。
しかし、こうした動物実験により、走ることで特殊なタンパク質の合成が抑えられ、海馬の細胞の数を維持できる可能性が高いことが証明されつつあるのです。
ネズミの実験で証明されたランニングによる海馬の細胞増
(出典)Van Praag H et al,: Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.,1999
記憶に関わる海馬の細胞の数の変化。走ったネズミは走らなかったネズミに比べて2倍以上細胞の数が増えています。
イラスト/加藤 マカロン
新型コロナ自粛の運動不足解消法として再注目されている「スローステップ運動」を、4章にわたって解説