「がんという死に方は悪くない」人生のフィナーレを迎えるための「死への準備時間」

「やりたいけど、まあいいか...」いろいろなことを先延ばしにしがちなあなたに、生きるためのヒントをお届け。今回は、3500人以上のがん患者と向き合ってきた精神科医・清水研さんの著書『もしも一年後、この世にいないとしたら。』(文響社)から、死と向き合う患者から医師が学んだ「後悔しない生き方」をご紹介します。

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「魂の死」を自分の世界観に位置付ける

人が「死」と向き合うには、死にまつわる問題を「死に至るまでの過程に対する恐怖」「自分がいなくなることによって生じる現実的な問題」「自分が消滅するという恐怖」の3つに分類すると整理しやすいと思っています。

3番目の「自分が消滅するという恐怖」については、魂の死と言ったりします。

死んだら自分の存在は消滅するのか。

消滅したら感覚もないと思いますが、それってどんな感じなのか、死んだ人から話を聴くことはできないし、そうなったら恐くないのか、と考えてしまうかもしれません。

アメリカの精神科医であるアーヴィン・D・ヤーロムは、「死んだ後の自分のことを心配するのならば、なんで生まれてくる前の自分のことを心配しないんだ?」ということを言っています。

確かに、生まれてくる前の苦しみは少なくとも今は意識されませんから、死んだ後のことも心配しなくてもよいということかもしれません。

死んだら自分の存在が無になると思っている方だけではなく、おぼろげなイメージも含め、死後の世界が存在するという感覚を持っていらっしゃる方がいらっしゃいます。

例えば先日、ある年配の女性が死後の世界のイメージについて語っておられました。

「この前、夢にお父さん(夫)が出てきたんです。あの世に行ったらお父さんに会える」という話をされました。

それに対して私は「お父さんに会えることを楽しみにされているのですね。どんな方だったのですか」という風に話を続けたら、とてもうれしそうに思い出を語ってくださり、表情が和らいでいかれました。

また、死後の世界は存在しないという考えを持っていて、死を恐れる方もいらっしゃいます。

私自身も最初はそのことをどう考えたらよいのか戸惑っていましたが、「死は、人生という私に与えられた一回きりの旅の終着点」と考えるようにしてから、「死」を自分の世界観の中に位置づけることができるようになりました。

また、がんで亡くなられた宗教学者の岸本英夫さんは、死を「大切な人たちとの大きな別れ」ととらえ、良い別れをするために相応の準備をすることで、心が穏やかになると言っています。

旅の終着点、大きな別れ、いずれの考え方も、一度だけの人生を一生懸命生きて、死に備えるという姿勢につながっていくと思います。

死を恐れる人は「ぽっくり逝く」ことを望みますが、死にまつわる様々な課題に対して取り組むことができるとわかれば、多くの人は「ぽっくり逝く」のではなく、死という人生のフィナーレのために、きちんと準備をする時間があることを望みます。

頭頸部がんの名医である海老原敏先生が、「がんという死に方は悪くない」と語っておられましたが、がんを知っている医療者の多くはそう捉えていると思います。

他にも、死後の世界が存在しないとしても、自分の思いは大切な人の心の中に宿っていることを意識し、自分の存在は形を変えて生き続けるととらえられ、「自分が消滅するという恐怖」が和らぐとおっしゃる方もいらっしゃいます。

65歳で大腸がん末期の男性の方は、最近生まれ故郷の景色がとっても懐かしく思い出されるという話をされました。

祖父母は自分をいつも甘やかしてくれて、近所のスーパーでお菓子をたくさん買ってもらったこと。

親せきのやさしいおじさんは子供がいなかったからか自分を息子のようにかわいがってくれて、いつもドライブに連れて行ってくれたこと。

真夏のネギ畑の強烈なにおいの中を両親に手をつながれて銭湯に行ったこと。

幼馴染みといっしょにワクワクしながら浜辺で花火を見た記憶。

お正月に親せきが集まって、にぎやかな中で楽しく遊んだこと。

エピソードひとつひとつがとてもあたたかく、何度振り返っても、そのたびに気持ちが満たされていったそうです。

そして、いろんな人が自分を愛してくれたこと、その人たちが居てくれたからこそ、自分の人生が豊かだったことに感謝の気持ちでいっぱいになったそうです。

そして次のようにおっしゃいました。

「自分もいろんな人生の中で登場人物になっているんだろうな。チョイ役かもしれないし、時には重要な役割だったかもしれない。人間だから人を傷つけてしまったこともあっただろう。そういう具合に、自分もいろんな人の気持ちの中で生きていて、僕のことを覚えてくれている人が、また誰かの心の中に生きる。大切な人たちの想いを僕が受けて、次の人にそれを手渡している。そう考えると、自分はちゃんと命をつなぐ役割を果たしたような気がするんだ」と。

※事例紹介部分については、プライバシー保護のため、一部表現に配慮しています。なお、登場する方々のお名前は一部を除き、すべて仮名です。

【最初から読む】がん患者専門の精神科医が伝えたい「人生で一番大切なこと」

【まとめ読み】『もしも一年後、この世にいないとしたら。』記事リストはこちら!

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病気との向き合い方、死への考え方など、実際のがん患者の体験談を全5章で紹介されています

 

清水研(しみず・けん)

1971年生まれ。精神科医・医学博士。2006年から国立がんセンター(現、国立がん研究センター)中央病院精神腫瘍科勤務となる。現在、同病院精神腫瘍科長。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医を務める。

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『もしも一年後、この世にいないとしたら。』

(清水研/文響社)

3500人以上のがん患者と対話してきた精神科医が伝える死ぬときに後悔しない生き方をまとめた一冊。病気への不安や死の恐怖とどう向き合えばいいのか、実際の患者の体験談とともに紹介。人生の締切を意識すると明日を過ごし方が変わり、人生が豊かになります。

※この記事は『もしも一年後、この世にいないとしたら。』(清水研/文響社)からの抜粋です。
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