入院しない「日帰り手術」は不安...そんな人に医師が伝えたい「入院のデメリット」って?

「自分が望んだ検査」や「ほしい薬」の処方をしてもらえず、お医者さんに満足できない...実はそれ、あなたの「病院のかかり方」に問題があるのかもしれません。そこで、多彩な情報発信をしている現役医師・山本健人さんの著書『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』(KADOKAWA)より、「知っておくと、もっと上手に病院を利用できる知識」をご紹介。医師&病院の「正しい活用術」を、ぜひ手に入れてください。

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「大きな手術じゃないから日帰りでいい」と言われました。手術前後に入院しないのは不安なのですが......」

【答え】
① 医者が「日帰りでいい」と言うなら、それに従うのがベストです
② 生活リズムを保つためにも、入院はできるだけ短い方がいいのです


入院そのものにもデメリットがある

手術の前後に1日でも長く入院して病院で過ごしたい、と考える患者さんがいます。

何かあっても病院にいればすぐに対応してもらえるから安心だ、という気持ちはとてもよく理解できます。

一方で、できるだけ入院せずに(あるいは最低限の入院日数で)手術を受けたいという人もいます。

なるべく自宅でいつも通りに過ごしたい、仕事に早く復帰したい、というケースです。

患者さんの希望を可能な限りかなえたいという思いはあるのですが、やはり医学的見地から「患者さんにとって最もメリットの大きな方法」を選ぶのが原則です。

そして、手術前後の入院日数に関しては、医学的に許される範囲内であれば可能な限り短い方が有利です。

もし日帰り手術をすすめられたのなら、医者は「入院しない方が結果的に患者さんの利益につながる」と判断したと考えるべきでしょう。

では、なぜ入院日数が短い方がいいのでしょうか?その最大の理由は、患者さんにとって、普段の生活リズムをできる限り崩さないことが体の調子を整える上で最も大切だということです。

特に高齢の方にとって生活リズムは切実な問題です。

入院中は、どうしてもベッド上の生活が長くなります。

すると、歩く機会が極端に減るため、それまで元気に歩いていた人でも急激に歩く力が衰えることがよくあります。

もともと自力で軽快に歩いていた患者さんが2週間ほど入院したところ、病気はすっかり治ったのに、退院するときは杖がないと歩けなくなっていた、ということもしばしばあります。

実は、私の祖父が以前、腕に大けがを負い手術を受けたことがあります。

集中治療室に入るくらいの重症で、生死の境をさまよい、結果的に入院は1ヶ月以上に及びました。

無事に退院はできたのですが、入院期間の大半がベッド上の生活だったせいで、退院するときはすっかり自力で歩けなくなりました。

入院中は毎日リハビリをしていたのですが、それでも歩く力を維持することはできませんでした。

足にけがをして歩けなくなったのなら不思議はないでしょう。

しかし、祖父は腕のけがで歩けなくなったのです。

実は、こういうことが医療現場ではしばしば起こります。

胃や大腸の病気でも、心筋梗塞でも、肺炎でも同じです。

「長期入院で普段の生活が失われること」そのものにこうしたリスクがあるということです。

また、入院中は人とのコミュニケーションが極端に減ります。

このことがきっかけで、認知症になったり、もともと認知症の患者さんの症状が進行したりすることもあるのです。

高齢の患者さんが入院しているとき、すでに退院できる状態であってもご家族の方から「まだ病院にいてほしい」と言われるケースはよくあります。

退院後に自宅で一緒に生活することに不安を感じるのは当然だと思います。

しかし、将来的にさらに重い介護が必要になるかもしれないリスクを考えると、入院はできるだけ短期間にして生活リズムを崩さない方がメリットは大きい、と考えた方がよいでしょう。

入院によって生活リズムが崩れないように注意!

入院時は、病状によっては「絶対安静」を指示されることもありますが、「歩いてもいい」と言われたときは、病院内でなるべく意識的に歩くのが大切です。

手術後などに看護師や理学療法士が付き添って「リハビリ」という形で病棟を歩く練習をすることもありますが、残念ながらすべての入院患者さんにスタッフが付き添うわけではありません。

リスクの高い患者さんに優先的にリハビリを提供しなければならないからです。

そこで、入院中は自分で毎日時間を決めて歩いたり、家族がお見舞いに来たときに一緒に歩いたりするのがおすすめです。

また、高齢の患者さんにはご家族の方が話し相手になって認知機能が衰えないようにすることも大切です。

ご家族にとってはささいなことに思えるかもしれませんが、医学的にはとても有効な手段です。

なかには、かなり高齢でも見た目はとてもお元気、という方が多くいます。

70代、80代であっても外見は50代くらいにしか見えず、老いを感じさせない方もたくさんいます。

こういう場合、ご家族も患者さんが高齢であることをすっかり忘れ、すこぶる元気で健康だと思いがちです。

しかし、体は確実に老いていますし、臓器の機能も年齢相応に落ちています。

若いときと見た目も体力も変わらない、と感じるかもしれませんが、誰しも「加齢」に抗うことはできません。

このことは、医療現場で多くの高齢者を見ていると非常によくわかります。

私が老いについて患者さんに説明するときは、こうした注意点をご理解いただくために、人が平均台の上を歩いているところをイメージしてもらいます。

若いときは、太くてしっかりした平均台の上を歩いています。

とても歩きやすい、幅の広い平均台です。

しかし、年齢とともに平均台は次第に細くなっていきます。

平均台の真ん中を歩いている本人にとっては、若いときと何も変わらず歩けているように見えていますが、実際には、足元の平均台は時間の経過とともに細く頼りなくなっていきます。

太くてしっかりした平均台なら、少しくらい風が吹いても、横から誰かに押されても、平気で歩き続けられます。

ところが、細い平均台の上では、ほんの少しの風が吹いただけでもよろけて落ちてしまうのです。

これまで大病をせず元気に過ごしてこられた高齢者は、今まで「風が吹かなかっただけ」で、足元の平均台は確実に細くなっている、と思っておく必要があります。

あるとき、ほんの小さな病気がきっかけで一気に老いが進むからです。

ここまで高齢者の話を強調してきましたが、一度崩れた生活リズムを簡単に立て直せないのは、もちろん若い人でも同じです。

年齢を問わず生活を立て直すのにある程度の時間と労力は必要です。

どんな人でも、医学的に可能な限り早く退院していつもの生活に戻る方が有利です。

以上のことから、「日帰り手術で大丈夫ですよ」と言われたときは、むしろ「願ったり叶ったり」と思うべきです。

日帰りできるにもかかわらず、あえて入院することのメリットは大きくないでしょう。

年齢とともに平均台は次第に細くなっていく

【若い人】

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【高齢者】200823_02.jpg

【まとめ】『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』記事リスト

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医師や医療行為への「よくある疑問や不安」を、Q&A方式でわかりやすく解説! 「医学のスペシャリスト」を上手に利用するための「34のエッセンス」が詰まっています

 

山本健人(やまもと・たけひと)
京都大学大学院医学研究科博士課程、消化管外科。「外科医けいゆう」のペンネームで運営する医療情報サイトが好評で、Twitterのフォロワー数は約7万人を数える。著書に『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎新書)、『もう迷わない! 外科医けいゆう先生が贈る初期研修の知恵』(シービーアール)、『もったいない患者対応』(じほう)がある。

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『医者と病院をうまく使い倒す34の心得 人生100年時代に自分を守る上手な治療の受け方』

(山本健人/KADOKAWA)

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※この記事は『医者と病院をうまく使い倒す34の心得 人生100年時代に自分を守る上手な治療の受け方』(山本健人/KADOKAWA)からの抜粋です。
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