電車に乗った途端に我慢できない便意をもよおして、次の駅で慌てて下車する...そんな経験ありませんか? それは、急にお腹が痛くなって下痢をしたり便秘を繰り返したりする「過敏性腸症候群」かもしれません。東急病院健康管理センター所長で心療内科医長の伊藤克人先生に「過敏性腸症候群」の治療法や対処方法について教えていただきました。
気持ちを外に向けよう
ストレスが過敏性腸症候群の元凶とはいえ、強いストレスから逃れるのは難しいことがあります。
布団に入ってストレスに関わる事柄が思い浮かぶと、眠れないこともあるでしょう。
質の良い睡眠が生体リズムを整えるため、睡眠が乱れると生体リズムが崩れて自律神経の乱れに拍車をかけることになります。
「過敏性腸症候群は、患者さんの症状に合わせた処方薬があります。ただし、過敏性腸症候群そのものもストレスになるため、自律神経訓練法や森田療法などを適応することもあります」
ひとつ例を紹介してみましょう。
各地で講演活動をしている大学の先生の事例です。
講演会の最初に司会者が自分の略歴を紹介するとき、必ずおなかの調子が悪くなっていました。
講演を始めると症状はなくなるのに、略歴紹介のときには症状が強く出ていたのです。
やがて症状が悪化し、講演が引き受けられないほどに。
そこで伊藤先生の心療内科を受診しました。
伊藤先生は問診をじっくり行い「略歴紹介をされているときには、聴講者に分かりやすく話すことだけを考えてください」と森田療法の考え方を示しました。
すると症状が改善したそうです。
「いまある症状をなんとかしようとすると、それがストレスになって症状が悪化します。森田療法では、『なんとかしたいという気持ち』の方向を変えて自律神経のバランスを整えるのです」と伊藤先生は説明します。
下痢を止めたいと思えば思うほど、それがストレスになって逆効果になります。
出かけるときに「過敏性腸症候群の症状が出たらどうしよう」と考えるのではなく、「出先でより楽しむために何をしようか」と、気持ちを外に向けるようにすることが大切です。
「気持ちを外に向ける」森田療法
精神科医の森田正馬が1919(大正8)年に創始した精神療法。
伊藤克人先生は外来で森田療法を実施して数多くの成果を上げています。
会議中に便意をもよおして何回もトイレに行った経験があると、「また会議中にトイレに行きたくなったらどうしよう」と思うことで症状が強くなります。
「トイレに行きたくなるのは仕方がない」と思い、会議の内容を充実させるよう思いを巡らせると、白然に便意を感じにくくなるそうです。
森田療法では「あるがままに受け入れる」こと、「気持ちを外に向ける」ことが指導されます。
患者さんのみならず一般の人のストレス軽減にも寄与する方法です。
医療機関によっては人院治療を行っているところもありますが、外来でも行われています。
ストレスは3つに分類できます
・身体的ストレス
冷えや寒さ、睡眠や休養の不足、生活リズムの乱れなど
・心理的ストレス
仕事量の増加、職場環境や友人たちとの関係悪化、人付き合いが新しくなり溶け込めない、家族構成の変化など
・生活習慣のストレス
過剰飲酒、食べ過ぎ、過度の香辛料接種など
過敏性腸症候群の人はもともと胃腸が弱いと自覚している人が多く、上記のようなストレスを受けると症状が悪化して普段の生活に支障を来すことも。
「検査」にはこんな方法があります
内科的な問診
どんなときに、おなかの具合が悪くなるのか、またその症状のようすを具体的に問診で診断します。
50歳以上の人は大腸内視鏡検査
下痢や便秘の症状は大腸がんなど別の病気のこともあるため、50歳以上で腸の不調が続くときには大腸内視鏡検査を受けましょう。
「治療」にはこんな方法があります
薬物療法
便秘症状改善薬や腸管運動調整薬、ガス減少薬などを症状に合わせて処方し、必要に応じて抗うつ薬などが追加されます。
生活習慣の改善指導
生活習慣に問題があれば、食事時刻、三食の食事量のバランス、睡眠、休養の取り方、運動習慣を改善するよう指導されます。
文/安達純子 イラスト/堀江篤史