「クオリティー・オブ・デス...死の質をあなたは知っていますか?」/鎌田實

雑誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回は鎌田さんが「あなた流の"死の哲学"をもとう」と語りかけます。

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カマタが大切にしている2つの信条

年間100回近く、命の講演会をしています。その講演で必ず話すことがあります。それは、ぼくが生きるうえで大事にしている2つのこと、すなわち「自分の人生は、自分で決定すること」「1%でいいから、誰かのために生きること」です。

この2つを、常に自分自身にで、問いかけて生きていると、人生を後悔しないですむように思うのです。そして、人生の最期においても、どんな死に方をしたいのか自己決定するために、ぼくも常に自分自身に問い続けています。

日本人は命のリテラシーが低い

自分の健康や命、死について自己決定するためには、よく考え、決断するためのリテラシーが必要になります。リテラシーとは、教養とか知識と言い換えることもできます。

「ところが、日本人は健康を守ることについてのヘルスリテラシーがとても低いのです。米国ボストン大学医学部の調査では、「自分が病気になったとき、専門家に相談できるところを見つけるのが難しい」と答えた人は、EU8カ国では1.9%だったのに対して、日本は8・4%でした。

テレビをつければ、たくさんの健康番組が放送され、雑誌では健康特集が組まれているのに、自分の健康を守るための行動に結びついていないのは、とても問題だと思います。

その延長線上に「死」があります。ぼくの印象では、「まだまだ先のこと」と、考えるのを先延ばしにしたり、「その時が来たら、なるようになる」と思っている人が大半です。

「なるようになる」は一見、楽観主義のようですが、ただの思考停止です。その結果、大事な自分の命が他人任せになり、望まない医療や痛みに苦しんだりすることになるのは残念でなりません。

充実した最期は、自己決定からスタート

保育園の園長をしている55歳のAさんが諏訪中央病院(長野県茅野市)の緩和ケア病棟に入院してきました。卵巣がんのⅣ期で、腹部全体に転移が広がっていました。静脈やリンパの流れが悪くなって下肢に浮腫が起こり、歩くことも難しくなっていました。

それでも、リンパマッサージを受けて状態を少しよくしては、保育園に行きました。Aさんはもう園長に復帰できないことを受け入れ、せめて子どもや保育士たちに「生きているってすばらしいことなんだ」ということを伝えたいと思ったのです。

家族との時間も大切にしました。体調のいいときに、一泊の家族旅行にも行きました。「日本海を見たい」と言うと、どうやって連れて行こうかと家族が集まって相談。その光景はとても愛情に満ちていました。

ある日、Aさんは「ステーキが食べたい」と言いました。もう立ち上がる力がなくなっており、レストランに行くには難しい状態でした。

看護師が、ぼくのところに相談に来ました。すぐに、市内のステーキハウス「レストラン ピーター」に電話すると、緩和ケア病棟で、ステーキ祭りをしようということになりました。

そのステーキハウスは、3兄弟がシェフをしていて、昨年、豪雨で大きな被害を受けた岡山県総社市へぼくが慰問に行ったとき、ステーキ丼などを用意し、被災者にふるまってくれた、あたたかな心の持ち主です。

シェフたちの協力で緩和ケア病棟でのステーキ祭りは大盛り上がり。ほかの患者さんや家族にも声をかけ、とても楽しいものとなりました。

こうしてAさんは最後まで充実した時間を過ごすことができました。それが実現できたのも、Aさんの「こうしたい」という。自己決定があったからです。

クオリティー・オブ・デス

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死の前には4つの痛みがあるいといいます。「肉体的な痛み」は、一番はっきりと現れますが、薬でかなり抑えることができます。「精神的な痛み」は、不安や「なぜ自分が」という怒りです。ときにはうつ的になることもあります。「社会的な痛み」は、仕事などが出来なくなることに対するいらだちや不安、不満です。「霊的な痛み」は、人生の意味を見出せず、生きる意味を見失う痛みです。これらの痛みを支えることで、クオリティー・オブ・デス(QOD、死の質)は高まっていきます。

諏訪中央病院の緩和ケア病棟は、患者さんの痛みを支えながら、「いい人生だった」と思ってもらえるように努力してきました。

しかし、日本のQODはそれほど高くありません。英国エコノミスト誌の「死の質の国別ランキング」(2015年)では、日本は1位。これは、緩和ケアと保健医療状況、人材、保健医療のための経済負担、ケアの質、地域社会とのかかわりの程度の5項目を数値化したものです。

死を支えるための環境を整えるには、一人ひとりが「どんなふうに死にたいか」、きちんと自己決定し、社会に訴えていくことが大事です。「死」をあいまいにしておくかぎり、QODは上がりません。

「死」と向き合うレッスン

米国イエール大学で人気の講座が日本版の本になりました。『DEATH 「死」とは何か』(シェリー・ケーガン著、柴田裕之訳、文響社)です。

著者のケーガン教授は「もし、死が本当に"一巻の終わり"ならば、私たちは目を大きく見開いて、その事実に直面すべきでしょう。自分が何者で、めいめいが与えられた、わずかな時間、をどう使っているかを意識しよう」と語っています。

人は必ず死にます。だからこそ、どう生きるかという命のリテラシー、命の教養が必要です。まずは、不治の病気になり、死が迫ったとき、人工栄養や人工呼吸器などの延命治療をどうするか、最期はどこで過ごすか、といったことから、考えてみましょう。考えは状況や年齢などによって変わっていきますが、常に考え続けることが大切だとぼくは思っています。

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<教えてくれた人>

鎌田 實(かまた・みのる)さん

1948 年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。『だまされない』(KADOKAWA)など著書多数。

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この記事は『毎日が発見』2019年11月号に掲載の情報です。

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