加齢による「体のだるさ」や「やる気の低下」は、病院に行っても「老化」の影響と診断されることが少なくないそうです。しかしこの「老化」、実はホルモンとミネラルの不足による「熟年期障害」という病気の可能性があります。そこで、専門医が最新研究を基に解説した話題書『熟年期障害』(平澤精一/アスコム)から、今すぐ知っておきたい「熟年期障害の症状と原因」を連載形式でお届けします。
テストステロンは「健康寿命ホルモン」である
ではここで、熟年期障害がどのようにして起こるのか、少し詳しくお話ししたいと思います。
熟年期障害は、主にテストステロン不足や亜鉛不足によってもたらされます。
テストステロンは男性ホルモンの代表的な存在で、コレステロールを原料としてつくられます。
「タンパク質から筋肉をつくり、増強する」「骨を発達させて強くする」「過剰なエネルギーを燃焼させ、脂肪をつきにくくさせる」など、「男性らしい体」をつくる働きをするのですが、テストステロンは女性の体内でも分泌されています。
また、テストステロンには、「血管の柔軟性を保つ」「やる気、意欲を高める」「冒険心や行動力、判断力を高める」といった働きがあります。このように、筋肉、骨、血管、メンタルなど、心身の健康の維持に深く関与しているテストステロンは、「健康寿命ホルモン」といっても過言ではありません。
一方、亜鉛は、人間の体に必要不可欠な栄養素(ミネラル)であり、細胞のDNAの複製やタンパク質の合成に関わって新陳代謝を促すという重要な役割を担っています。また、人間の体内の、おびただしい数の酵素の働きを助けています。
具体的には、亜鉛には「皮膚や毛髪、爪などの新陳代謝を促す」「免疫細胞の働きを助ける」「成長ホルモンの働きを維持し、骨の成長を促す」「インスリンの働きを助け、糖尿病を遠ざける」「肝臓内の、アルコールを分解する酵素の働きを助ける」「味覚を維持する」「ビタミンAの働きを活性化させ、視力を維持する」といった作用があり、「体の細胞を生き生きとさせるミネラル」であるといえるでしょう。
このように、テストステロンと亜鉛は、それぞれ、心身の健康や若々しさを保つうえで重要な役割を担っています。
加齢やストレスが、テストステロンの分泌量を低下させる
ところが、テストステロンは、一生のうちで分泌量が変化します。図表4のように、男性の場合、一般的に、第二次性徴期(せいちょうき)にテストステロンの量が増え、10代後半から20代前半にピークを迎えますが、その後、加齢とともに、緩やかに減少してしまいます。
また、テストステロンの分泌量は食生活や生活環境などにも左右されます。
テストステロンが増えないような生活をしていると、早ければ40代でテストステロンが激減することもあるのです。
一方、女性の場合、体内で分泌されるテストステロンの量自体は男性より少ないのですが、最近の研究では、年配になると、テストステロンの分泌量が増えるとの報告もあり、65歳ごろになると、男女のテストステロンの分泌量はあまり変わらなくなるともいわれています。
しかも女性は、更年期を迎えて閉経すると、エストロゲン(女性ホルモン)の分泌量が急激に減少するため、相対的にテストステロンの割合が高くなります。
つまり、熟年期には、女性もテストステロンの影響を強く受けるようになり、何らかの原因でテストステロンが減ると、熟年期障害になる可能性が十分にあるのです。
すでにお話ししたように、テストステロンは「健康寿命ホルモン」といってもよいほど、心身の健康維持に関与しています。
そのため、加齢などによってテストステロンの分泌量が減ると、男女問わず、「意欲や行動力、判断力が低下する」「筋肉が落ち、筋力、体力が低下する」「骨がもろくなる」「脂肪がつきやすくなる」「動脈硬化が起こりやすくなる」といったことが起こります。
さらにテストステロンには、「自分が周囲の人に認められている」と感じたり、新しいことにチャレンジしたり、勝負ごとに挑んだり、体を動かしたりすると、分泌量が増えるという特徴もあります。
意欲や行動力、筋力や体力が低下すると、どうしても外出したり人と関わったりすることがおっくうになり、社会から孤立して、ますますテストステロンが低下するという悪循環にも陥りやすくなるのです。
最新の研究、データに基づき、5章にわたって「熟年期障害」の正体を解説。自分で予防ができるセルフケア法も