なかなか治らない「慢性的な腰痛」。もしかすると、腰以外の部分に原因があるかもしれません。生活習慣、体の硬さ、心、脳、睡眠の専門家5人が追究した「腰痛の正しい原因」について、『あなたの腰痛が治らないのは治し方を間違えているから』(日本腰痛研究開発機構/アスコム)より連載形式でお届けします。あなたの腰痛の治し方が見えてきますよ。
痛みを理解できていないから痛い
私は高校の野球部をメインに、スポーツ選手のトレーニング指導やケガの対応を行っています。
スポーツをする中では、もちろん体の痛みを訴える生徒や選手もいるのですが、自分の感じている痛みが、何をきっかけにして、どんなときに、どのように生じるのかを把握できていない人が少なくありません。
私はこれが、「何をしても治らない慢性痛」の一つの原因ではないかと考えています。自分の腰痛に対する理解を深めることが、痛みの原因を明らかにする一つの方法です。「よくわからないけど痛い」という状況から、「痛みとちゃんと向き合うこと」へと理解のステージを進めていきましょう。
では、「痛みと向き合う」とはどういうことなのかというと、自分の痛みを客観的に理解することです。痛いという悲観的な状況では、痛みに対する理解に思い込みが生じ、その後の行動にも悪い影響を与えがちです。
そうならないために、まずは痛みに対する思い込みを取り払い、正確で具体的な理解をすることを目指します。痛みを理解するということとは、具体的にいうと、自分の痛みを詳細に説明できることです。そしてその痛みを自分でも納得することです。
痛みを理解できれば、痛みを軽減できる可能性があるのです。
痛みの原因を突き止める「腰痛問答」
痛みを理解するためには、細かく具体的に、痛みに対する質問を繰り返すことが有効です。私は痛みを訴えてくる学生に対して、どんどん深掘りして情報を引き出すことから始めます。要するに、本当に腰が痛いのかを深く追求していきます。
質問1「どこが痛みますか?」こう聞くと、最初は多くの人が「腰のあたりが痛いです」としか答えてくれません。そこで次に、より具体的な質問をします。
質問2「どんなふうに痛みますか?どんなことをすると痛みますか?」このように聞き直すと、「腰を曲げると痛いです」「ビリっと電気が走ったような感じです」というように、本人の答えも徐々に具体的になっていきます。そしてさらに掘り下げていきます。
質問3「普通に立っていると痛みは出ませんか?腰を反ると痛いですか?」こう聞くと、「立っているだけでは痛くないです。反っても大丈夫です」と自分の痛みに対する理解が深まっていくのがわかります。
このようにして質問を重ねないと、自らの痛みに対して細かく分析してみることはないでしょう。
ただ、質問者がいなくても、自問自答することはできます。あなたも先の3つの質問に対して、自分でも答えてみてください。
「やっぱり腰そのものに痛みがある」
「どうやら腰以外を動かしたときに腰に痛みが出るみたいだ」
「冷静に自問してみると、思っていたほどの痛みはなさそうだ」
きっといろいろな答えが出てくることでしょう。この方法は、前章までで2名の先生から説明のあった原因を自分で納得するためにも使っていただけるでしょう。
痛みの捉え方も慢性化の原因に深く関わる
痛みの現状を客観的に理解したら、次に大事なのは、痛みに対する自分の気持ちや考えを具体化することです。
例えば私は次のように問いかけます。皆さんも自分だったらどう答えるか、考えてみてください。
質問4「腰の痛みは自分にとってどのような存在ですか?」すごく嫌なものだったり、運動や日常生活をするうえで邪魔なものだったりするでしょう。
質問5「どうやったら治りそうですか?」これは、わからないという人が多いかもしれません。しかし大事なのは答えが合っているかどうかではなくて、治すことを考えることです。
質問6「痛みがなくなったら、どうしたいですか?」今まで我慢していたスポーツを思いきり楽しみたいとか、ポジティブな思考に切り替えていくことが大事です。
これらの質問の目的は、受け身ではなく、必要な情報を積極的に選択する主体性を持たせることです。それが腰の痛みの緩和や予防にもつながるからです。
痛みを自分でどう捉えるかが、その痛みが慢性化するかどうかにも深く関わってきます。そんな心の問題が痛みの原因になるのか?と疑問に感じる人もいるかもしれませんが、私の経験上、これは事実です。
一つ例をあげましょう。私が指導している学生やスポーツ選手の中には、稀に、痛みを「心理的に治したくない」人がいます。普通は痛みを、一刻も早く取り除きたいはずですが、なぜ「治したくない」状態になってしまうのでしょうか。
それは、「頑張っているのに結果が出ないのは、腰の痛みのせいだから仕方ない」と、自分で思い込んでいるためです。痛みがあることが理由のようになってしまって、「自分の腰は痛いんだ」と強く思うことが原因で痛みが現れることがあるのです。
このようなときに、腰に目立った異常はないのに痛みがあるという、原因不明の慢性腰痛になってしまいます。この状態に陥っている場合は、痛みは繰り返されます。
例えば、試合が近づいてくるとまた逃げ道が必要になり、痛みを心が生み出してしまうのです。仮病のように嘘をついているのとはまったく違います。本人も意図しているわけではなく、本当に痛みがあるのです。
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