中高年の女性を中心に患者数が急増している「肺MAC症」。身近な暮らしの中にある、結核菌と同じ種に属する「MAC菌」という細菌が感染することで起こるといわれています。今回は「かかりやすい人」や「菌がどこに存在しているか」などをQ&A方式で複十字病院・副院長で呼吸器内科長の佐々木結花先生にお聞きしました。
Q:肺MAC症にかかりやすい人はどんな人?
A:40歳以上の女性、生真面目、やせ型、胸部が薄い、気管支の機能的な問題(体内に侵入する異物を押し出す機能が弱い)などの体質や傾向が見られます。
Q:菌はどこに存在しているの?
A:MAC菌は、自然界の水場や土壌に多く生息しています。例えば家庭環境においては、浴槽の出水口や排水口、シャワーヘッド、泥付きの野菜、花鉢などから検出される可能性があります。農作業やガーデニング時の土ぼこりや水滴中に菌が含まれている場合もあります。
Q:なぜ複数の薬を服用する必要があるの?
A:MAC菌を根絶する薬剤がないので複数の抗菌薬で対処する必要があります。また抗菌薬を単独で使用し続けると、やがて薬が効きづらくなる恐れがあります。
Q:抗菌薬の副作用はある?
A:食欲低下、倦怠感、発疹、発熱、口内炎、味覚障害、下痢などがあります。薬によっては視神経障害で視力が低下したり、視野が狭くなったりすることがあります。異常に気付いたら、担当医にすぐ相談しましょう。
Q:再感染を予防するために日常生活で気を付けることは?
A:塩素ではMAC菌は死滅しません。乾燥を嫌うので、風呂場の清潔を保ち常時換気扇を利用して乾燥させることが大切です。浴室を掃除する際はマスクの着用を心がけます。農作業やガーデニングなど水滴や土ぼこりを吸う恐れがあるときもマスクをしましょう。管理が行き届いていない露天風呂なども感染の恐れがあります。
■どう違う? 結核と肺MAC症
「肺MAC症」をの原因となる「MAC菌」は結核菌と同じ種に属します。結核と異なり人から人には感染せず、病気の進行は緩やかなどの違いがあります。では、感染経路、進行の速度、治療、患者の特徴について、結核と肺MAC症の違いをみていきましょう。
【結核】
・人から人へ感染
・治療薬と使い方が確立され、98%が完治する。
・結核病棟への入院対象。
・数カ月単位で進行。
・患者の6割が男性。
・再発のリスクは低い
【肺MAC症】
・人から人へは感染しない。
・水滴や土壌など環境中に生息する
MAC菌から感染する。
・数年単位でゆっくり進行。
・完治できる薬はまだない。
・外来あるいは一般病棟で治療。
・中高年女性の患者が多い
・再発のリスクは高い。
まとめると以下の図のようになります。
自覚症状がないからと放置していると、次第に肺が破壊される恐れがあります。
発病していることが分かったら、必ず定期的に通院して、経過を観察することが大切です。
取材・文/古谷玲子(デコ) イラスト/メイタ ハセガワ