「2人に1人がかかる」と言われるほど身近な病気である「がん」。ただ、断片的な情報は知っていても、検診や予防、基礎知識など「実はよくわかっていないのよね」という人も多いのではないでしょうか? そこで「がんにまつわる気になる疑問」を、最新の知識を備えたがん治療のスペシャリスト・明星智洋先生に尋ねた注目の新刊『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』(すばる舎)から一部を抜粋、最新の「がんの知識」を連載形式でお届けします。
もしかして、がん......?急いで受診したほうがいい10パターン
――基本的に検診は1年に1回でいい、という話でしたが、急にがんができて急に悪くなる、ということはないんですか?
明星先生 気になるところだと思います。基本的に検診は1年に1回で問題ありません。ただし、早目に受診したほうがいい場合としては次のような症状が出ているときです。
早めに受診しておいたほうがいい10パターン
(1) ダイエットをしていないのに直近3ヶ月で体重が10%以上減少した場合
(2) 原因不明の発熱が続く場合、また毎晩大量の寝汗をかく場合
(3) 急に血糖値が上昇して糖尿病と言われた場合
(4) 咳が長引き、痰たんに血が混じっている場合
(5) 便が黒くなったり、急な便秘や便が細くなってしまった場合
(6) 爪が反り返ってスプーンのようになっている場合
(7) 下のまぶた(の裏)が白い場合
(8) 舌のひだひだがなくなった場合、また口内炎や舌炎(ぜつえん)がなかなか治らない場合
(9) 以前よりも口臭がきつくなった場合
(10) 皮膚が以前よりも黒ずんでいる場合
これらのパターンのいずれかが出てきた場合には、別途検査をおすすめします。
――ずいぶんと具体的ですね! それぞれ詳しく教えてもらってもいいですか?
明星先生 はい。まず(1)の体重についてですが、がんがあると栄養を消耗させされて体重が減少することがあるんです。目安は3ヶ月以内に体重の 10%で、たとえば体重 60キロの人が特にダイエットもしていないのに3ヶ月以内に6キロやせた、という場合にはがんの可能性を疑ってもよいと思います。この場合、全身のチェックをおすすめします。
――熱も出るんですね?
明星先生 はい、ケースバイケースですが、がんになると腫瘍熱(しゅようねつ)という発熱症状が出ることもあるので、37度台の微熱がずっと続いている、という場合にはこちらも精密検査をおすすめします。また、一晩で着ているシャツを着替えなければならないほどの寝汗をかくような場合は、特に血液のがんの一種、悪性リンパ腫の可能性があります。
――3つ目は糖尿病ということで、意外な気がしますが関係があるんですね?
明星先生 はい、以前の健康診断ではまったく問題なかったのに、急に糖尿病になった、というような場合はインスリンの分泌が急激に落ちたという可能性があります。可能性の一つとして、すい臓がんであることも考えられるんです。
――なるほど、臓器が正常に働いていないから急に病気になる......ということもあるわけですね。
明星先生 そのとおりです。その点、(4)に挙げた咳や血痰も肺の異常が考えられます。咳が異様に長引く、痰に血が混じっている、という場合には、肺がんや結核の可能性があるので、早急に肺のCTを撮影する必要があります。
――便も大事な要素なんですか?
明星先生 かなり大事な要素です。便が黒くなったような場合は、胃からの出血が原因として疑われ、胃潰瘍(いかいよう)や胃がんの可能性があります。この場合には胃カメラをする必要があります。また、今までは快便だったのに、急に便秘になったり、便が細くなったりした場合は大腸がんの可能性もあります。便潜血検査や大腸カメラをおすすめします。
――がんになると出血というのはよくあることなんですか?
明星先生 はい、代表的な症状の一つです。ですから、貧血の有無もがんに関係してきます。
――貧血ですか!?
明星先生 はい、貧血があるということはどこからか出血している可能性があるということです。その点、(6)の爪が反り返ってスプーンのようになっているのは貧血のサインです。また(7)のあっかんべーをしたときに見える下まぶたの裏の部分は通常赤いのですが、これが白いとやはり貧血のサインです。さらに、(8)の舌も鉄欠乏の状態になるとひだひだが収縮して平坦になるんです。これらのサインが出ていた場合、胃がんや大腸がん、子宮頸(けい)がん、子宮体がんなどの可能性がないかチェックをおすすめします。
――口内炎も関係するんですね?
明星先生 はい。なかなか治らない口内炎や舌炎がある場合は、舌ぜつがんなどの可能性もあるので、口腔外科受診をおすすめします。さらに、9つ目の口臭は自分ではなかなか気づきにくいのですが、嫌な口臭がするようになったら、消化器系のがんの可能性があります。胃カメラや口腔外科受診をおすすめします。
――最後の皮膚の黒ずみというのは?
明星先生 内臓にがんがあったとき、皮膚にその兆候があらわれることがあります。これを「デルマドローム」といって、症状は多岐にわたるのですが、皮膚の黒ずみが代表的です。また眼瞼(がんけん)の浮腫(ふしゅ)、つまりまぶたのむくみが出てくる場合もあります。ふだんと違った皮膚の状態があれば、胃がんや肺がんなどの可能性もあるのでチェックが必要です。
――こう見ていくと、自分の状態をチェックしておくことで兆候が見つかりやすいものもありそうですね。
明星先生 そうですね。定期的な検診はもちろん、日々の自分の体の状態をきちんと把握しておいて、何かおかしいぞ、というときには病院に。これはがんに限らず病気をふせぐ王道になると思います。
【まとめ】
がんの多くには、「予兆」がある。
それを見逃さないよう、自分の体の状態に意識を向ける
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