「2人に1人がかかる」と言われるほど身近な病気である「がん」。ただ、断片的な情報は知っていても、検診や予防、基礎知識など「実はよくわかっていないのよね」という人も多いのではないでしょうか? そこで「がんにまつわる気になる疑問」を、最新の知識を備えたがん治療のスペシャリスト・明星智洋先生に尋ねた注目の新刊『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』(すばる舎)から一部を抜粋、最新の「がんの知識」を連載形式でお届けします。
がん保険には入っておいたほうがいい? 貯金はいくらあれば安心?
――先生、最近2人に1人はがんになる、という話を聞くのですが、本当ですか?
明星先生 本当です。少し前は3人に1人と言われていましたが、今は2人に1人というくらいまで患者さんの数が増えています。
――そうすると、やっぱりがん保険には入っておいたほうがいいんでしょうか?
明星先生 保険はたしかに気になるところでしょうね。あくまでも医師としての見解になりますが、結論から言うと、無理して入らなくてもいいのかなとは思います。
――え! 入らなくてもいいんですか!? でも、がんの治療ってお金がすごくかかるイメージがあるんですけど......。
明星先生 そうですね、まずは治療費の部分をスッキリさせましょう。一口にがんと言っても、種類はさまざまです。また、ステージや治療法によって大きく変わってきます。
たとえば胃がんを例にとると、「早期に発見できて、内視鏡で切除するだけで済む」という場合には入院期間も短く、その後の通院も頻繁に行う必要もないので費用は少なく済みます。
一方で、手術ができない状態の進行胃がんの場合は、抗がん剤などの薬剤を使った治療を選択することになります。最近は性能のいい新薬剤がどんどん開発されている一方で、薬価も高騰しています。また抗がん剤の場合は、通院が副作用で続けられないか、効果がなくなるまで継続されるため、1回の治療費用だけでなく治療するたびに料金が発生してしまいます。
――やっぱり進行してしまうと大変なんですね......。あれ、でもそうすると、やっぱり保険には入っておいたほうがよくないですか?
明星先生 そう思われるかもしれませんが、日本の医療制度は患者さんにとって非常に優しい仕組みになっているんです。保険証を持っている方であれば年齢や収入に応じて1割から3割の負担で済むようになっています。それはほとんどの方がご存じだと思います。
――3割負担というやつですよね! でも、月に治療費が100万円かかったとすると、30
万円は必要になってきませんか? そんな金額、毎月は支払えません......。
明星先生 はい。実はそこが日本の医療制度のすごいところで、「高額療養費制度」というものがあり、窓口での支払額が一定の金額を超えた部分は還付されるんです。
――え、そうなんですか!?
明星先生 一般の収入の方ですと、1ヶ月4万4400円の自己負担で済むことになります。さらに「医療費控除」として、年間10万円を超える医療費に関しては控除の対象となり、確定申告をすることで還付される可能性もあります。
――そう聞くと、たしかに一時金があれば何とかなりそうですね。
明星先生 はい、おっしゃるとおりです。つまり、一定額以上の貯蓄がある場合は多額の保険は不要だろうと思うのです。保険料の分を積み立て貯金して、がんになったらそこから支払って、がんにならなかったらおいしいものを食べたり、旅行に行く費用に充てるっていう使い方もありかもしれないと私は思います。予防や検診をしっかりしていれば、基本的には保険適用内の標準治療でたいていのがんは対応可能です。
――なるほどなぁ......。だから予防と検診が必要なんですね。じゃあ先生、もしものときのためにはいくらくらい貯金があればいいんでしょうか?
明星先生 1年闘病することになった場合、一般的な年収の方であれば医療費として貯金が50万円ほどあれば大丈夫でしょう。その場合には、がん保険は不要だと思われます。
ただし、場合によっては入院での治療になることがあります。入院費は別途自費になり、部屋によって1泊3000~3万円が相場になってきます。個室での治療を望む場合はさらにかかる可能性もあるのですが、それを含めても100万円ほどで何とかなるのではと思います。
――貯蓄50~100万円が一つの目安なんですね。
明星先生 ええ。ただしこれは、あくまでも保険適用内の「標準治療」を進めていく場合の話だとお考えください。
――標準じゃない治療があるんですか?
明星先生 はい。患者さんの中には、たとえば保険適用外の「陽子線治療」や「免疫治療」などを希望される方がいらっしゃいます。これらは治療費が自費になるため、月に100万円から200万円ほどかかることもあります。
――ええ? 月200万! ちょっとすごすぎですね......。
明星先生 はい。これらの治療を選択できる人は、経済的にかなり余裕のある方々か、標準治療をすべて試したけれど、副作用のために続けられない、効果が出ない、という限られた場合にはなってくるかと思います。そうしたときには、現状の仕組みではかなりの負担がかかってきますので、気になる方は保険を含めて検討なさってみてください。
――基本的にはそのケースは少ないんですよね?
明星先生 そうですね、お伝えしたように、予防と検診をしっかり行っていただければ、ほとんどの場合は標準治療内でおさまるものだと考えていただいてよいと思います。ただ、もう一つの検討事項として、人によっては入院で仕事ができなくなる可能性もあります。
働き盛りの方の場合、入院した場合は家庭の収入を補てんするという意味でがん保険はありかもしれません。
【まとめ】
保険適用内の治療なら50~100万円くらいの備えがあれば安心。
収入保障がほしい人は「がん保険」もあり。
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