がん治療のスペシャリストに聞きました「そもそも、がんってなんですか?」

「2人に1人がかかる」と言われるほど身近な病気である「がん」。ただ、断片的な情報は知っていても、検診や予防、基礎知識など「実はよくわかっていないのよね」という人も多いのではないでしょうか? そこで「がんにまつわる気になる疑問」を、最新の知識を備えたがん治療のスペシャリスト・明星智洋先生に尋ねた注目の新刊『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』(すばる舎)から一部を抜粋、最新の「がんの知識」を連載形式でお届けします。

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がんってそもそもなんですか?

―― では先生、さっそく伺っていきたいのですが......初歩的なことですみません。そもそもがんって何なんですか?

明星先生 そうですね、まずはそこからクリアにしていきましょう。がんをごく簡単に言うと、細胞の暴走です。

――細胞の暴走ですか?

明星先生 はい。私たちは、そもそもがん遺伝子という遺伝子を持っているんです。がんはその遺伝子によってつくられる細胞で、このがん遺伝子に問題が起きたとき、がん細胞が
暴走します。がん細胞が無制限に増殖して、あらゆる臓器にダメージを与えてしまう状態をがんと言うんですね。

――誰もが持っているものなんですか! 何で暴走してしまうんでしょう?

明星先生 私たちの体には、がん遺伝子と同様に、それをおさえるがん抑制遺伝子というものがあって、それらが絶妙のバランスで成り立っています。しかし、がん遺伝子が活性化
してがん抑制遺伝子がおさえられないとき、がん細胞ができあがるんです。

――がん抑制遺伝子が働かないと、がん細胞ができてしまうと......。

明星先生 ただ、それでもすぐにがんが発症するわけではありません。がん細胞ができても、体には免疫細胞が備わっています。通常は、この免疫細胞ががん細胞をやっつけてくれ
るんです。しかし、その免疫さえもがん細胞が突破したときに各臓器でがんが発症します。

――そうか、それで免疫が大事と言われるんですね。

明星先生 そうなんです。また、がんが発生する場所によって呼び方も変わってきます。胃にがんができたときには胃がん、肺にできたら肺がんですが、筋肉にできた場合はわかりますか?

――筋肉がん!......とは言わなそうですよね(笑)。

明星先生 はい(笑)。筋肉がんではなく、肉腫(にくしゅ)と呼びます。

――ああ肉腫! 聞いたことがあります。

明星先生 さらにですね、血液細胞ががんになることもあります。

――血液細胞ですか!?

明星先生 はい。もっとわかりやすく言うと、血液成分ががんになっている状態です。白血病って聞いたことがありますよね。

――あります! 

明星先生 白血病も実はがんの一種で、まさに血液細胞ががん化したものなんです。

――え、そうだったんですか!?

明星先生 そうなんです。血液のがんは白血病や多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)、悪性リンパ腫という名前になり、これらもすべてがんになります。

――それは知りませんでした......。がんになるとどんな症状が出るんですか?

明星先生 症状も、実はがんができる場所によってさまざまなんです。肺がんの場合は、血痰(けったん)、つまり血の痰が出てきたり、呼吸が苦しくなったりすることがあります。胃がんの場合は、胃が痛くなったり、黒い便が出たりします。大腸にがんができたら、便秘になったり、便が細くなったりという具合です。

――そうした症状は必ず出てくるものなんですか?

明星先生 いえ、残念ながらかなり進行しないと症状が出てこないものもあります。代表的なものがすい臓がんです。

――すい臓がん! 僕のおばあちゃんもすい臓がんで亡くなったんですが、見つかったと
きにはもう末期で、診断から半年足らずでした......。

明星先生 それはお気の毒でしたね......。すい臓は沈黙の臓器とも言われていて、初期の頃は無症状のことが多く、体が黄色くなる「黄疸(おうだん)」という症状が出たときにはすでに進行しているということが多いんです。

――まさにそうでした! 悲しかったなぁ......。

明星先生 お気持ち、すごくよくわかります。実は私も祖母をすい臓がんで亡くしたんです。

――えっ、先生もおばあさまがすい臓がんで!?

明星先生 そうなんです。やはり私の祖母も見つかったときには末期で、私ががんを治す医師になろうと決めたのは、祖母の存在があったからなんですよ。

――え!? もともとお医者さんを目指していたわけではなく?

明星先生 ええ、実はもともと医師になるつもりはまったくなかったんです。数学や理科は好きでしたけど、親も医師ではありませんし、大学は工学部にでも行こうと思っていました。
でも、高校2年生のときに祖母がすい臓がんだと診断され、「もう治せないだろう」と言われてしまったんですね。私は祖母にはすごくかわいがってもらっていたので、そう告げられたときは正直どうしていいかわかりませんでした。

――それはおつらい......。

明星先生 ひどくおばあちゃん子だったので、その夜に1人家を飛び出して、地元の港にたたずんでいた記憶があります(笑)。そこでひとしきり泣いたあと、祖母を襲ったにっくき
「がん」を撲滅(ぼくめつ)したいと思って、それから医学部を目指したんですよ。

――高校2年生から医学部志望ですか!?

明星先生 成績はいたって普通だったので、国立の医学部を目指すにはかなり難しい状況だったと思うのですが、死にものぐるいで勉強してどうにか医学部に入ったという感じです。

――なんと! 並々ならぬ先生のおばあちゃん愛を感じますね(笑)。

明星先生 そうですね(笑)、皮肉にも祖母のがんで本当に人生が変わりました。
そうやって私は医師になってがんの診察に携わってきたのですが、あの頃から比べてもすい臓がんの治療や治療成績に関しては大きな進歩がないのが現状です。

――え?! やっぱりすい臓がんって、そんなに治すのが難しいんですか!?

明星先生 はい。残念ながら、すい臓がんに関しては有効な手立てがまだない状況です。しかし、全体的に見ればがんに関する医療は非常に大きな進歩をしています。
たとえば初期症状が目立たないがんに悪性リンパ腫というものがあるんですが、これは全身のリンパ節が腫れる病気で、通常は痛みがないまま進行します。首やわきの下などのように、外から触れることができる場所にあれば発見もできますが、お腹の中など、外から触れることができない場所に悪性リンパ腫ができた場合、気づかずに進行して、診断されるときには進行期だということは珍しくありません。

――怖いなぁ......。そうなるとやっぱりもう難しいんですよね?

明星先生 悪性リンパ腫は先ほどお話しした血液がんの一種なんですが、実は抗がん剤がよく効きます。

――そうなんですか?

明星先生 はい。ステージがかなり進行していたとしても治療することができる可能性のあるがんなんです。

――がんによってそんな差があるわけですか!

明星先生 はい。そうしたことを事前に知っておくと知らないとでは、やはりがんとどう向き合うか変わってくると思います。

 

【まとめ】
がんは細胞が暴走して起きるもの。
内臓、筋肉、血液、あらゆる部分ががん化する可能性がある!

 

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がん治療のスペシャリストに聞きました「そもそも、がんってなんですか?」 9784799108369 (2).jpg「がんは遺伝する?」「仕事はやめなきゃいけない?」「感染するがんがあるって本当?」など、40を超えるテーマについて専門医に質問、対話形式でわかりやすくまとめられています

 
※この記事は『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』(明星智洋、松本逸作/すばる舎)からの抜粋です。

 

明星智洋(みょうじょう・ともひろ)

江戸川病院腫瘍血液内科副部長 兼 感染制御部部長。東京がん免疫治療センター長。MRT株式会社 社外取締役。1976年岡山県生まれ。高校生の時に、大好きだった祖母ががんで他界したことをきっかけに医師を目指し、熊本大学医学部入学。その後、医師国家試験に合格。血液悪性腫瘍およびがんの化学療法全般について学ぶ。血液専門医認定試験合格、がん薬物療法専門医最年少合格。専門は、血液疾患全般、がん薬物療法、感染症管理。現場と最新の医療情報を知る医師の観点から情報を発信している。

 

松本逸作(まつもと・いっさく)

作家、ライター。年間ベストセラーランキングに入る実用書やビジネス書をはじめ、サブカルやグルメを扱ったウェブ記事、漫画原作など、多岐にわたる媒体・ジャンルでマルチに活躍。


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『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』

(明星智洋、松本逸作/すばる舎)

予防法は?早期発見するには?身近な人がかかったら?最適な治療法は? そんな疑問を、最先端の治療に携わり、数多くの有名人も治療してきた名医が、現場の知識と最新の研究もふまえ「おすすめの病院」まで教えてくれます。対話形式でわかりやすい構成が魅力の「がん」に備える入門書として最適の一冊です。

この記事は『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』(明星智洋、松本逸作/すばる舎)からの抜粋です。
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