「難聴で相手の話が聞き取りにくい」「めまいがつらくて気分までふさぎこんでしまう」など、難聴やめまいに悩む人はどの年齢にもいて、悪化すると生活に支障が出ることがあります。「急に耳が聞こえなくなった」という場合は、すぐに受診したほうがいいことも。難聴やめまいなどの症状や治療法、受診の目安、日ごろの注意点などについて、聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科学教授の肥塚泉先生に聞きました。
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●難聴に併発しやすい「耳鳴り」
難聴と密接に関係する症状に「耳鳴り」があります。周囲で音がしているわけではないのに、「ザー」「キーン」「ジー」などという音が聞こえる状態です。耳鳴りの多くは難聴に伴って発症。伝音難聴と感音難聴のどちらの難聴でも、耳鳴りを伴うことがあります。難聴以外にメニエール病、中耳炎などでも耳鳴りが起こることがあります。
耳鳴りのきっかけはよく分からない場合がほとんどです。「いつの間にか耳鳴りになっていた」「いままでは気にしたこともなかったけれど、いま突然、耳鳴りが気になるようになった」というようなケースが珍しくありません。
「耳鳴りは、聞こえが悪くなっている音域と同じ高さの音として聞こえることが多いです。聞こえが悪い音域があると、その音域の電気信号が脳に届きにくくなります。脳はその音域を聞き取ろうとして感度を上げるために、耳鳴りが起こるのではないかと考えられています。例えば加齢性難聴は高い音から聞こえづらくなるため、耳鳴りも『キーン』という高い音として聞こえます」と肥塚先生。
一度、発生するとずっと聞こえ続ける耳鳴りですが、次第に慣れてあまり意識に上らなくなることが多いです。ただし、脳出血や脳梗塞などの重大な病気が耳鳴りの原因になっていることがあるので、早めに一度は受診して確かめることが必要です。なお、数分で回復する耳鳴りの場合は、生理現象の一つなので特に問題はありません。突発性難聴に伴う耳鳴りなどは治療を受けて難聴が回復するにつれて、耳鳴りも改善する場合があります。ただし、突発性難聴の治療のタイミングが遅れると、耳鳴りの回復も難しくなってしまいます。
●耳鳴りの治療法には「TRT療法」「カウンセリング」「補聴器装用」などがある
耳鳴りの治療には、耳鳴りを軽減する「TRT(ティー・アール・ティー)療法」があります。耳鳴りをなくすのではなく、脳が耳鳴りを意識しないように訓練する方法です。サウンドジェネレーターという補聴器のような機器を耳たぶに引っかけて使います。サウンドジェネレーターから1日8時間ほど、FMラジオのノイズに似た「シー」という音を耳鳴りよりも小さなボリュームで流し、耳鳴りだけに意識がいかないような環境を作ります。半年ほどで耳鳴りの症状がやわらぐことが多いです。
「カウンセリング」では、医師や臨床心理士などからカウンセリングを受けて、耳鳴りの原因となる心理的要因を探り、ストレスが軽減できるようサポートします。
また、補聴器を使用して聞き取にくい音を補うと、耳鳴りが軽減する場合も。薬物療法として、血流を改善する薬やビタミン剤などを服用することもあります。
●不安やストレスで悪化する耳鳴り
耳鳴りは、「仕事を退職して生きがいがなくなった」「配偶者が急に亡くなった」など、ストレスが引き金になって起こることが少なくありません。「耳鳴りのせいで家事が手につかない」「耳鳴りが気になってよく眠れない」というように不安や苦痛が大きいと、耳鳴りが強くなる傾向があります。反対に、趣味などに没頭しているときには耳鳴りが気にならないことも。「あまり耳鳴りにとらわれず前向きに生活を楽しみ、何かに熱中するのも一つ対処法です」と肥塚先生。
昼間、周囲がにぎやかなときには、その音にまぎれて耳鳴りをあまり意識しなくて済んでいても、夜になって静かになると耳鳴りが気になることがあります。その場合は、音楽やラジオの音、川のせせらぎや風の音などのネイチャー・サウンドを小さく流すのがおすすめです。
●カウンセリングで耳鳴りが改善した例
78歳の男性Aさんは加齢性難聴がありました。半年前に妻が亡くなり一人暮らしになると、家でふさぎ込むことが増えてあまり外出しない生活に。その頃から耳鳴りを感じるようになり、不安になって耳鼻咽喉科を受診。臨床心理士のカウンセリングを受けて、「なるべく外に出て他の人と話したり、趣味を楽しむといいですよ」とアドバイスされました。アドバイスに従って毎日、散歩に出かけて近所の人と立ち話をしたり趣味の盆栽を再開したら、耳鳴りが軽減しました。
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取材・文/松澤ゆかり