坐骨神経痛とは、腰から足にかけて延びている坐骨神経が、さまざまな原因によって圧迫されたり、刺激されたりすることであらわれる、痛みやしびれなどの症状を指します。
坐骨神経痛の原因となる病気はいくつかあり、また、症状がよく似ていても坐骨神経痛ではない場合もあります。そこで、平和病院副院長で横浜脊椎脊髄病センター長の田村睦弘先生に症状の見極め方や治療方法、痛みを改善するセルフケアのやり方などを教えていただきました。
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椎間板の変形が発症の原因。腰を使うスポーツや作業に注意を
坐骨神経痛の主な原因である腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板の変形が原因で起こります。椎間板は、椎骨と椎骨の間でクッションの役割を果たしています。中心には、弾力性に富んだゼリー状の髄核(ずいかく)があり、その周りをコラーゲンでできた固い線維が、年輪のように取り囲んでいます(線維輪/せんいりん)。
「髄核には、肌にも含まれるコラーゲンやヒアルロン酸と同じ成分のプロテオグリカンという保水力に優れた物質が多く含まれます。ですが、このプロテオグリカンは10代後半から減り始め、それに伴い髄核の水分も減少。髄核は徐々に硬くなり、髄核の一部が飛び出したり、周囲の線維輪がつぶれて飛び出したりして椎間板ヘルニアになります。プロテオグリカンが減り始めるのが10代後半からのせいか、発症は20代が最も多く、ついで30~40代、10代と続きます」(田村先生)
腰椎椎間板ヘルニアは、前かがみの姿勢になると腰痛が増すのが特徴です。多くは最初に腰痛があらわれ、徐々に坐骨神経痛があらわれます。中には、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す人もいます。重労働の人や前かがみになることの多い看護師や介護士、美容師、スポーツ選手など、腰に負担のかかる作業やスポーツなどで発症しやすく、一度かかると長い間、痛みに悩まされるケースが多いようです。喫煙も危険因子の一つと分かっており、腰痛や坐骨神経痛を早く改善するためには禁煙を心がけましょう。また最近は、椎間板ヘルニアになりやすい遺伝子の存在も明らかになっています。
●腰椎椎間板ヘルニアになりやすい人は?
・重い物を持ち運ぶなど、重労働に従事する人
・中腰や前かがみの作業が多い人
・スケートやスノーボード、サーフィンなど、前かがみで行うスポーツをする人
・野球やゴルフ、ダンスなど、腰のひねりを伴うスポーツをする人
・事務職など、長時間デスクワークをする人
・バスやタクシー、トラックの運転手など、長時間、車の運転をする人
事務職や車の運転などで長時間座りっぱなしの姿勢は、お尻の奥にある梨状筋(りじょうきん)が坐骨神経を締め付ける梨状筋症候群(※)を引き起こす原因にもなります。梨状筋症候群が原因で坐骨神経痛が引き起こされることもありますが、治療法が異なるので、しっかりと診断を受ける必要があります。不安な場合は、整形外科や脊椎専門外来を受診しましょう。
※梨状筋症候群:梨状筋は、お尻の後ろ側から大腿骨へとつながる筋肉。坐骨神経は、梨状筋がつくるトンネルを通るため、梨状筋の柔軟性が失われて固くなると、坐骨神経が締め付けられてしまい、お尻から下肢にかけて痛みとしびれが起こります。座っているときや、ひざを内側に向けた内股の姿勢のときに症状が強くなります。
「腰椎椎間板ヘルニアは、歩けるようであれば、ストレッチなどの運動療法や、温熱療法、マッサージ療法などの物理療法、コルセットで腰椎を支える装具療法、鎮痛薬などの薬物療法、局所麻酔薬や抗炎症薬で痛みの伝達を遮断するブロック療法といった保存療法が基本です。しかし、立ったり歩いたりできない、下肢の脱力症状や排尿障害・排便障害があるなどの重症で、保存療法では回復が見込めない場合は手術に踏み切った方がいい場合もあります」(田村先生)
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取材・文/笑(寳田真由美)