放っておくと脳出血や脳梗塞、狭心症に心筋梗塞など、さまざまな病気リスクが高まる高血圧。シニア世代に多い高血圧を解消すべく、治療の第一人者であるミスター血圧こと渡辺尚彦先生が経験から導き出した降圧法をご紹介します。
無理なく苦労なく、薬に頼らずに血圧を下げることができるのです!
ミスター血圧こと渡辺尚彦先生
24時間30年以上、自分で血圧を測り続けてわかったこと
渡辺尚彦先生は、30年以上にわたって24時間ずっと血圧を測り続けています。白衣を脱ぐと、左腕には常に血圧計の腕帯が巻いてあります。
「継続して測らないと、普段の血圧の状態を知ることができません。そこで医者である自分が実験台になって、血圧を測り続けようと思い立ちました。30年以上も自分の血圧を測り、そのデータを医学的に研究しているのは、世界で私ともう一人くらいでしょうか......」
入浴中は血圧計が壊れるので外すそうですが、睡眠中や食事中はもちろん、トイレでも血圧計を装着。診察中、散歩するとき、電車や車での移動中も、ずっと血圧計を腕に巻いたまま測り続けています。
「今は血圧計もコンパクトで軽量になって、ずいぶん楽に持ち運びができるようになりました。私が血圧を測り始めた1987年ごろはバッテリーも重くて、腕帯も痛かったし、血圧計を持ち歩くだけで血圧が上がってしまいそうでした(笑)」
こうして「ミスター血圧」と呼ばれるようになった渡辺先生は、自分の経験を生かして、高血圧に悩む多くの患者さんを治療しています。先生の著書『血圧を下げる最強の方法』は、研究の集大成です。
「私は医者になってすぐに高血圧だった父を亡くしました。これが循環器内科医になった理由の一つでもあります。高血圧症の患者さんを診ているうちに、医者嫌いな父を思い出し、苦手な病院まで来てくれたのだから、なんとか治療の成果を出してあげたいという気持ちになったのです」
「そもそも血圧はちょっとしたことで変動する不安定なものです。血圧が高い人も低い人も、変動するということにおいては同じです。体の動き、感情の変化、環境、体質などにも影響されやすく、急に走ったり、怒ったりするだけで、収縮期血圧が200近くになったりもします。このように血圧はとてもデリケートなのです」と渡辺先生。
■血圧は朝が高くて夜が低い!起床時・朝食時に注意!
朝は目覚める前から体を動かす 準備のために血圧が上がり始めます。夕方から夜になるにつれて下がり、睡眠中は低い状態が続きます。注意したいのは朝の高血圧。さらに起床時や食後にも血圧は上がります。
血圧を急に上げる活動について渡辺先生は、(1)排便、(2)排尿、(3)食事、(4)怒り・緊張、(5)痛み、(6)急な体位の変化(立ち上がる・しゃがみ込む)の六つを挙げてくれました。
「排便するときは力を込めていきむので血圧が上がります。排尿を我慢し続けると、体が緊張して血圧が上がります。排尿後は急激に血圧が下がり、立ち上がると血圧が上がるので、トイレは血圧の乱高下を起こしやすい場所として注意が必要です」
特に排便のいきみは一般的に最も大きく血圧を急上昇させてしまいます。いきまずスムーズに排便できるような「快便」を心がけたいですね。
食事も血圧を上げる要因になるそうです。早食い、大食いをしながら、イライラする...などを避け、リラックスして食事を楽しみましょう。
立ち上がる、しゃがみ込むなど体(特に頭や心臓)の位置を変える動きも血圧を上げる要因になります。できるだけ血圧を上げないようにするには、ゆっくりとした動作で行うことです。怒りも血圧を上げる原因になると渡辺先生は言います。
「診療中にスタッフのミスがあったときに怒りが込み上げて、血圧計を見たら180を超えていたのでびっくり! それ以来、怒りを感じないよう大らかな気持ちを持ち続けるように心がけています」とご自身のエピソードを教えてくれました。
痛みを感じているときにも、血圧は上がると渡辺先生は指摘します。「痛みは大きなストレスです。我慢し続けている間はずっと血圧が高い可能性がありますから、痛みを感じているときは、なるべく早く解消するようにしましょう」
■血圧が「正常」とは、どういうことなのでしょうか?
収縮期(上の)血圧が140mmHg以上、 拡張期(下の)血圧が90mmHg以上、どちらかを超えると高血圧症です。高血圧になると血管が硬く、狭くなり、動脈硬化や脳卒中、心筋梗塞など命を脅かす病気や認知症の引き金になります。望ましい血圧(至適血圧)は120/80mmHg未満ですが、年齢とともに血圧は上がります。「若い頃から低血圧だったから大丈夫」と考えずに血圧を測りましょう。
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取材・文/宇山恵子