坐骨神経痛とは、腰から足にかけて延びている坐骨神経が、さまざまな原因によって圧迫されたり、刺激されたりすることであらわれる、痛みやしびれなどの症状を指します。
坐骨神経痛の原因となる病気はいくつかあり、また、症状がよく似ていても坐骨神経痛ではない場合もあります。そこで、平和病院副院長で横浜脊椎脊髄病センター長の田村睦弘先生に症状の見極め方や治療方法、痛みを改善するセルフケアのやり方などを教えていただきました。
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立つ、座る、前かがみになる・・・
姿勢によって腰への負担は変化する
姿勢が悪いと筋肉を疲弊させ、腰痛や坐骨神経痛を引き起こし、悪化させる原因となります。それだけに、日頃から良い姿勢で生活することが大切です。
「坐骨神経痛の予防・改善は、自己管理が第一です。上手に自己管理することで、症状は軽減します」と、田村先生。
坐骨神経痛を改善するためにまず覚えておきたいのは、正常な脊柱の配列を保つこと。背骨は、横から見たとき自然なS字状のカーブを保っている状態がベストです。このS字状カーブのおかげで、体のバランスをうまくとって運動したり、体に加わる衝撃をやわらげたりすることができます。ところが、S字状カーブが崩れると、体重や運動による負荷が大きくなり、腰椎に負担がかかります。その結果、腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアなどの病気を引き起こしやすくなります。
「立つ、座る、歩く、荷物を持つといった日常の動作を行う際、できるだけ正しい姿勢を保つことで腰椎への負担が軽くなり、神経への圧迫が軽減されて坐骨神経痛の症状が軽くなります。肥満の人は、減量して腰の負担を減らすことも欠かせません」(田村先生)
腰にはさまざまな形で圧がかかりますが、圧のかかり方や大きさは、姿勢によって異なります。椎間板にかかる圧力を姿勢ごとに測定した研究では、「普通に立っているとき」の椎間板への圧力を100とすると、「立った状態で腰を20°前に曲げた姿勢」では150、「いすに腰かけている状態」では140、「いすに腰かけてかがんだ状態」では185とされています。腰を深く曲げるほど椎間板への圧力は増加していることが分かります。
腰椎椎間板ヘルニアの人が、前かがみになったときや、前かがみの姿勢で荷物を持とうとすると強い腰痛を感じるのは、椎間板に強い圧力がかかり、飛び出した椎間板が神経を圧迫するからです。また、咳やくしゃみをしたときに、ぎっくり腰を起こすことがありますが、これは、椎間板の内側に不意に強い圧が加わることが原因です。
一方、腰部脊柱管狭窄症の人が腰を反らした姿勢で痛みを感じるのは、脊髄や馬尾(ばび、※)を包んでいる硬膜(こうまく)に大きな圧がかかるため。たとえば、普通に立った姿勢で硬膜にかかる圧は70mmHg(水銀柱ミリメートル)弱ですが、腰を反らせると130mmHg以上の圧がかかります。また、腰を前に曲げた姿勢だと、硬膜にかかる圧は20mmHgにも満たないため、前かがみの姿勢がラクなのです。
「同じ腰椎の病気でも、ラクな姿勢が違うのは、姿勢によって、かかる圧の場所や大きさが異なるため。坐骨神経痛を改善するには、早めに原因となる病気を把握し、なるべく腰に負担をかけない生活を心がけましょう。また、腰を支える筋肉の緊張を緩めるストレッチや筋力をアップさせる運動療法を行うことも改善の近道です」(田村先生)
※馬尾とは、脊髄の下端にみられる脊髄神経の束。脊髄神経は、脊柱管の中をまっすぐに下行し、脊髄の終末部である終糸(しゅうし)をほうき状に取り囲んでいます。その形状が馬のしっぽに似ていることから「馬尾」と呼ばれています。
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取材・文/笑(寳田真由美)