40代を過ぎて、肩が痛い、腕が上がらないという時にまず思い浮かべるのが、四十肩・五十肩ではないでしょうか。「そのうち治るだろう」「年をとったから痛くなっただけ」と自分で判断し、放っておく人も多いですが、実は、いつ爆発するかわからない「爆弾」を抱えているのと同じ。気づかないうちに重症化していて、手術が必要となる場合もあるので、軽く考えるのは禁物です。
肩の仕組みをはじめ、四十肩・五十肩の原因や症状、予防法などを、麻生総合病院 スポーツ整形外科部長で、肩関節の治療を専門とする鈴木一秀先生にお聞きしました。
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肩の痛みの先にあるさまざまな病気
肩に痛みを感じる場合、肩の筋肉や関節の異常だと思う場合がほとんどですが、実は肩以外の内臓などの部位が、肩の痛みを引き起こしている場合も。中には重篤な疾患のサインとなっていることもあるので、いつもと違う痛みや違和感があったら、早めに医療機関を受診しましょう。
■心筋梗塞
心臓の血管が詰まる病気で、血栓が詰まって血流が悪くなり、心筋が壊死を起こして左胸に痛みを感じるのが一般的。ですが、この際に心臓でなく、肩に痛みを感じることがあります。心臓や胃腸などの体の深部の臓器の痛みは、脊髄を介して脳に伝わり、「痛い」と感じるのですが、痛みの場所を間違える場合があるのです。脊髄には肩の関節の神経、心臓の神経などが複雑に交差しています。そのため、伝達の過程で、本当は脳へ心臓の痛みを伝えたいのに、肩の痛みを伝えてしまうことがあるのです。
このような内臓疾患に伴う痛みは「関連痛」といい、医学的にも証明されています。心筋梗塞の場合は、歯、喉、背中が痛くなる場合もあるそうです。
同じような部位の神経を脊髄が支配しているために起こる伝達の間違いなので、肩の痛みを感じるのは当然、心臓と同じ左肩。通常の四十肩・五十肩は腕を上げたり動かしたりする時に痛いのですが、心筋梗塞の時は腕を動かさなくても肩が痛いので、そのあたりの違いが目安となると考えられています。
■肺がん
心筋梗塞と同じ理由で、肩に痛みを感じることがあります。
■糖尿病
体内の血糖のコントロールがうまくできなくなると、腱板が血行不良となり、肩の拘縮を発しやすいといわれています。一度発症すると治りにくくなるのも特徴。また、血糖が高くなると、肩の感染症を起こしやすくなるとも考えられています。
■変形性頸椎(けいつい)症、頸椎症性神経根症(けいついしょうせいしんけいこんしょう)
40代以上に多く見られ、ヘルニアと間違われることも多い症状です。頸椎の骨棘(こつきょく。骨のとげ)が神経を圧迫し、肩や肩甲骨周辺、腕にかけて痛みやしびれを感じるものですが、肩そのものの炎症である四十肩・五十肩とは異なります。
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取材・文/岡田知子(BLOOM)