肩関節はとても複雑なメカニズムで動いています。肩関節は腕の骨(上腕骨)が肩甲骨と接してできていますが、その接合部は浅く、腕を上げる動作ではインナーマッスルが大事な役割をはたしています。このインナーマッスルが刺激を受けたり傷んだりすると、痛みが生じたり、腕を上げられなくなったりします。
代表的なものとしては『五十肩』が挙げられますが、実は肩のトラブルはそれだけではありません。そこで東京女子医科大学・肩関節外来で、毎月400人の患者さんを診察している神戸克明先生にお話を伺いました。
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夜も痛くて寝られない、肩の筋肉がやせてきたら疑うのは『腱板断裂』
主に腱が全部切れている状態の「完全断裂」を指し、腱が切れかかった状態は「不全断裂」と呼びます。
腕が前方から上には上がるものの、横にしてから後ろに上がらなかったり、夜に痛みのため目が覚めたりします。背中から見ると肩甲骨のまわりの筋肉がやせてきて、肩の骨のでっぱり(肩峰)が目立つようにも。
60代に多く、男性が6割を占め、右肩に多く発症します。断裂の大きさが1cm未満なら小、1cm以上3cm未満は中、3cm以上5cm未満は大、それ以上なら広範囲断裂と分類されます。注射やリハビリによる治療で治らない場合には腱を縫い付ける手術をします。
「断裂が3cmまでなら、内視鏡手術が可能です。縫った後、サポーターで3週間固定して、リハビリを行い、3カ月後にはふつうの生活に戻れます。5cmまでの大きさであれば、腱を縫い付ける手術をします」
耐えきれない痛みで疑うのは『石灰沈着性腱板炎』
この病気の痛みは、「救急車を呼びたくなるくらいです」と神戸先生。
女性に多い病気で、原因は、腱板に水平状に亀裂ができて、その間に血液中のカルシウムが細胞間に沈着する石灰化が起きること。しかし、石灰化のために痛みが生じるわけではなく、腱板の亀裂が痛みのもと。腱板は完全に切れてしまうと痛みはなく、皮一枚でつながっていてもう少しで切れそう、という状態がものすごく痛いのだそうです。かつては針を刺して石灰を吸引する治療法もあったそうですが、痛さのあまり、気絶(!)する人もいたそう。
現在では、ステロイドやヒアルロン酸の注射による治療が行われます。
「石灰は脂溶性なので、ヒアルロン酸に自然に溶けていきます。3カ月から半年、このヒアルロン酸注射とリハビリの治療を行い、ようすを見ます。通常は、手術をすることはありません」
なお、神戸先生は夜に痛みが強くなる、動きが制限される...。といった症状が3週間続いたら、整形外科で診てもらった方がよい。治療に納得がいかないなどあれば、肩を専門とする医師に診てもらうことをお勧めしています。
神戸克明(かんべかつあき)さん
東京女子医科大学東医療センター整形外科准教授。肩関節外来で毎月のべ400人の患者を診察。五十肩、腱板断裂などの内視鏡手術は2003年より500例を超え、日本の医師の中で屈指。日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医。