糖尿病はアルツハイマー型認知症のリスクを上げる! 予防はどうする?

年齢とともに、物覚えが悪くなったり、人の名前が思い出せなくなったりすることは誰にでも起こります。しかし、認知症は「老化によるもの忘れ」とは異なり、何らかの病気によって脳の神経細胞が壊れるために起こる症状や状態を指します。
糖尿病とアルツハイマー型認知症の関係や予防法を、東京医科大学高齢総合医学分野(高齢診療科)主任教授の羽生春夫先生にお話をお伺いしました。

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糖尿病が引き起こす合併症は体だけでなく脳の中にも

インスリンが不足または効きが悪くなることで血糖値が下がらず、さまざまな合併症を引き起こす、糖尿病。現在、国内でその疑いのある人は1000万人ともいわれています。その糖尿病が、認知症の発症に密接に関係していることが、最近の研究で明らかに。近年の認知症の増加は、高齢者の糖尿病が急増していることが背景にあるとも指摘されています。

●糖尿病の仕組み早分かり
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では、どうして糖尿病があると認知症になりやすいのでしょうか。「糖尿病の合併症としては腎症や網膜症などがよく知られていますが、実は脳の中にもさまざまな問題を引き起こすことが分かっています」と話すのは、羽生春夫先生。糖尿病が認知症のリスクを上げてしまう、三つの理由を教えていただきました。

まず一つ目は、糖尿病がアルツハイマー型認知症の原因物質を増やすこと。インスリンには血糖値を下げる作用の他、脳内にたまったアミロイドβたんぱくを排出する働きがあります。ところが糖尿病になると血糖値を下げるために多くのインスリンが使われてしまい、脳はインスリン欠乏状態に。その結果、アミロイドβたんぱくは排出されず、脳内にたまっていくのです。

「アルツハイマー型認知症が〝脳の糖尿病〟といわれるのはこのため。加えて、脳内のインスリンの働きが悪くなると、アミロイドβたんぱくの産生を促進させたり、もう一つの原因物質であるタウたんぱく質の異常を促進してしまうことも分かっています。つまり糖尿病は、アルツハイマー型認知症の全ての過程で、進行を促す方向へと働いてしまうのです」

 
三つの理由の〝合わせ技〟で病変が小さくても発症

二つ目は、糖尿病によって脳の動脈硬化が進むこと。脳梗塞を起こしやすくなり、それが血管性認知症のリスクへとつながります。

そして三つ目は、糖尿病によって高血糖状態が長く続いてしまうこと。糖尿病になると、食事のたびに血糖値が急激に上がるようになりますが、この食後高血糖が神経細胞にダメージを与えます。糖尿病の罹患期間が長くなり、食後高血糖の状態が長期に及べば及ぶほど、神経細胞がどんどん死滅していってしまいます。こういった糖代謝異常が及ぼす神経細胞障害により、認知症が引き起こされてしまいます。

問題は、これらの三つのことが、同時に起きてしまうこと。
「一つ一つの病変自体は大したことはなくても、複数のことが同時に起きることで、発症に至ってしまうことがあります。私たちはこれを〝合わせ技効果〟といっています」(羽生先生)。

予防のためには血糖コントロールが重要であることはいうまでもありませんが、それは患者だけの話ではないと羽生先生。「食後血糖値が正常範囲(140㎎/dℓ未満)の健康な人でも、より高い値の人は認知症になりやすいことが分かっています。健康な人も、食後の血糖値の急激な増加はリスクになります。何よりも、普段からバランスの取れた食事や運動を心がけ、糖尿病を防ぐことが、将来の認知症予防に不可欠です」。

 

糖尿病と認知症発症リスク

※九州大学「久山町研究」より引用改変
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●久山町(ひさやまちょう)研究とは?
福岡県久山町(人口約8400人)の地域住民を対象に、50年以上にわたり実施されている生活習慣病(脳卒中・認知症など)の疫学調査のこと。

※1 空腹時血糖は食前の血糖値を表すもの。110mg/dℓ未満が正常値 
※2 耐糖能異常は糖尿病と診断されるほどではないが、血糖値が正常範囲よりも高い状態 
※空腹時血糖は健康診断などで調べられます。HbA1c の数値が高い場合(6.5%以上)、食後高血糖の可能性があります。確実に調べるには、病院でブドウ糖負荷試験(ブドウ糖を飲んで2 時間後に血糖値を測定)を実施。

 

●糖尿病の予防・改善には
食事を改善しましょう
糖尿病予防には食事が重要ですが、極端な制限はストレスに。暴飲暴食は禁物ですが、あくまで大切なのは毎食の栄養バランス。必要な栄養素をしっかり摂取しましょう。

有酸素運動で全身を動かす
運動すると筋肉の血流量が増え、インスリンの効果が上がり、血糖値が下がります。ウォーキングやジョギングといった有酸素運動で、普段から全身を動かしましょう。

 

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取材・文/佐藤あゆ美 イラスト/福々ちえ

 

 

<教えてくれた人>
羽生春夫(はにゅう・はるお)先生

医学博士。東京医科大学高齢総合医学分野(高齢診療科)主任教授。認知症疾患医療センター長として多くの認知症患者を診療している。専門は老年病学、神経内科学。著書に『認知症を予防する生活習慣』(メディカルトリビューン)。

この記事は『毎日が発見』2018年12月号に掲載の情報です。
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