「食欲がない」「胃がもたれる」「胃がキリキリと痛む」......誰もが一度ならず経験があるのではないでしょうか。胃の調子は健康のバロメーター。不調であれば、「食べた物が悪かった?」「それともストレスが大き過ぎた?」と考え、食べる量を控えるなどして、胃の健康を保とうとします。なぜ、胃の調子は悪くなってしまうのでしょう。しょっちゅう起こる胃痛や胸やけから、胃食道逆流症、胃潰瘍や胃がんまで、兵庫医科大学病院副病院長の三輪洋人先生にお聞きしました。
前の記事「健康な胃腸は「勝手に」動いて生命を維持している/胃の不調(1)」はこちら。
極度のストレスで胃の動きは止まる
「前の記事「健康な胃腸は「勝手に」動いて生命を維持している/胃の不調(1)」で、胃や腸は内因神経に従って動いているとお話ししましたが、同時に、『自律神経』の調節のもとで動いています。自律神経とは、"戦い"の『交感神経』と"休み"の『副交感神経』のバランスが状況に応じて切り替わり、体の機能をコントロールしているものです」と三輪先生。
関連記事:「健康な胃腸は"勝手に"動いて生命を維持している/胃の不調(1)」
自律神経とは、体が良い状態を保てるように常に動いている神経のこと。例えば、暑い時には汗をかいて体温が上昇しすぎないようにするのが交感神経、気温が下がれば汗を止めるのが副交感神経です。交感神経が優位になれば高揚感が出て、副交感神経が優位になればリラックスします。
そのバランスが崩れた時、人間のはどうなるのでしょうか。ひとつの例を三輪先生が教えてくれました。
「もしも、突然、目の前にいる人がピストルを取り出して、あなたに向けてきたとします。あなたは、『死ぬかもしれない!』と思います。そういう恐怖の極限に達した時、交感神経が極端に優位になります。すると人は、胃の中の食べ物を嘔吐してしまいます。失禁もあります。緊張が胃や腸の働きを止めて、中にあるものを外に出し、体を軽くして、逃げやすくするのです。このように胃の動きは、自律神経の影響を受けています」
テレビドラマなどでは、新米の刑事が遺体に対面した時、見慣れないので思わず嘔吐するといった場面があります。大きなストレスに直面したり、大きな悩みを抱えた時に、嘔吐するまではいかなくても、食欲不振に陥ったり、食後の消化不良で胃がもたれたり、なんだか胃がしくしくと痛むといった体験をしたことのある人は、多いのではないでしょうか。
睡眠不足で、胃は過敏になる
「ある研究では、全く寝ていない人と十分な睡眠をとった人の胃の反応を調べました。胃の中に風船を入れて徐々に膨らませた場合、風船がどの程度で、胃がどんなことを感じるかという実験です。十分に睡眠をとった人は50cc程度の大きさでは何も感じません。100ccで感じる人もいますが、苦しさはなく、ほとんどの人は300~400ccで痛みを感じます。ところが、前日に一切睡眠をとらなかった人のグループでは、100cc程度で痛みを訴えた人が多くいたのです。つまり、疲れて、緊張していると、胃は敏感になり、小さな変化に反応するのです。
この『感じる』は、胃の3つめの大事な機能です。胃でどのように感じるかは個人差があります。同じ物を胃に入れた時、Aさんは平気だけれど、Bさんはすぐにお腹がいっぱいになる、胃もたれをして仕方がないということがあります。また同じAさんでも別の日であれば、体調も異なりますから、別の感じ方をします。それは自律神経に左右されるからです」(三輪先生)
「お腹がいっぱいになった」「空腹だ」ということを「感じる」のも胃が感じることができるからなのです。ほかに「胃がキリキリと痛む」「胃が重い」など、私たちは胃で様々なことを感じています。
次の記事「胃がキリキリ痛む、げっぷが出る...「機能性ディスペプシア」かも?/胃の不調(3)」はこちら。
取材・文/三村路子