「食欲がない」「胃がもたれる」「胃がキリキリと痛む」......誰もが一度ならず経験があるのではないでしょうか。胃の調子は健康のバロメーター。不調であれば、「食べた物が悪かった?」「それともストレスが大き過ぎた?」と考え、食べる量を控えるなどして、胃の健康を保とうとします。なぜ、胃の調子は悪くなってしまうのでしょう。しょっちゅう起こる胃痛や胸やけから、胃食道逆流症、胃潰瘍や胃がんまで、兵庫医科大学病院副病院長の三輪洋人先生にお聞きしました。
胃酸はpH1~2で強烈な酸性
ごはんをおいしく食べることは健康の基本です。だからこそ私たちは、胃を大切にしています。普段、「お腹が空いた」「お腹がいっぱいになった」と言って、しょっちゅう「腹」=「胃」の調子を気にしています。
へそよりも少し上、食べ物をたくさん食べると膨らむ部分が胃です。もしも胃に痛みなどの不調があると、食事を思うように摂れないし、気分が落ち込んでしまうこともあります。場合によっては、寝込んでしまうこともあります。「胃の不調」とひとことで言っても、様々な症状があるわけです。
健康な胃は、どのように働いているのでしょうか。
私たちが食べ物を食べると、それは口でかみ砕かれ、食道という管の中を通って、胃に入ります。満腹になったと感じれば、私たちは食べるのをやめます。食べ物は、胃の中でどろどろに消化され、腸に送られ、腸の中を進む間にその栄養が体に取り込まれ、残りは便として排出されます。このように消化器官はひとつながりの管になっていて、胃はその間にあるひとつの器官です。
「胃の機能は、主に3つあります。もっともユニークで、他の臓器にはない機能が『胃酸を出す』という働きです。pH1~2という非常に強い酸によって食べ物をどろどろに消化して、同時に、体にとって害となるばい菌を殺します。胃酸以外にも、たんぱく質を分解するペプシンや、胃壁を守る粘液なども分泌していますが、胃酸の分泌は、胃のもっとも特徴的な機能です」と三輪先生。
胃は、思い通りには動かせない
「ふたつめに、胃には『動く』という機能があります。胃が動くことで、食べ物と胃酸は混ぜ合わされ、どろどろの粥状になるまで消化が進みます。胃は腕や脚の筋肉とは異なり、『勝手に』動くので、私たちはその運動を意図してコントロールすることはできません」と三輪先生は解説します。
私たちは意識して食べ物を口に入れます。小さくかみ砕いた食べ物を飲み込むことも意識して行います。しかしその後、食道を通って胃に入り、胃の出口から腸へと順次送られていくのは、意識しなくてもそのように流れます。
「胃を含め、食道から腸までの消化器官というのは、もともと非常に強いものなのです。
腔腸動物という、簡単に言えば、管だけの生物がいます。その管の始まりに食べ物を置いておくと腔腸動物はムニュムニュと動いて、食べ物を体内で移動させ、反対側からポンと出します。そうやって生きている動物がいます。消化器官は生物が生命を維持するための根源的な器官なのです。
もしも、今、私が死んで、体から腸だけを切り出してシャーレの上に置いておくとしましょう。そして腸の端に卵か何か食べ物を置いておくと、腸はムニュムニュと動いて、腸の中に卵を送り流していきます。『勝手に』動いてしまう。人間の腸もそれほど強いのです。
それは、胃や腸には内因神経がある、つまり、自らがそう動くようにできているからです。
人間の意図に従って動く随意運動をしませんから、止めたくても止めることはできません。脈打つ心臓を止められないのと同じです。生命を維持するために、そのようなシステムになっているのです。それほど強くても、病気になってしまうことがあるのです」(三輪先生)
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取材・文/三村路子