96歳の作家が神戸の教師イジメ事件に感じた「日本人の劣化」/佐藤愛子さんインタビュー(2)

新しい時代・令和も元気に活躍されている90代の皆さん。
お生まれになったのは、大正や昭和一桁の時代です。
大正から昭和、平成、そして令和へとーー。数多くの経験に基づいたお話は参考にしたいことばかり。今回は、大正12年生まれ、作家の佐藤愛子さんに、いくつになっても日々はつらつと暮らすための考え方を伺いました。

前回の記事『96歳の作家が「現役で書き続ける」秘訣とは?/佐藤愛子さんインタビュー(1)』はこちら

96歳の作家が神戸の教師イジメ事件に感じた「日本人の劣化」/佐藤愛子さんインタビュー(2) 2001p011_01.jpgターコイズブルーのセーターがよくお似合いの佐藤さん。
シニヨンのまとめ髪も、毎朝ご自分でなさるそうです。


肉体は消えても魂は残るから、今生の生き方が大切

佐藤さんが2018年に上梓した『冥界からの電話』には、死後も魂が成仏せず、心残りのある人に2年間電話をかけ続ける少女の魂が登場します。

これは本当にあった話なのだそう。

「死んだ後も、魂に今生の記憶があるのか、ないのか...。これは科学的証拠のない話ですから、死んでみなければ分からない。

でも、かつての日本人が死後のことや魂の成仏を考えて祈ってきたように、私は、死後も魂は存在すると信じています。

今生では肉体と魂の両方で存在しているけれど、死んだら肉体はなくなり、魂は残る。

魂には続きの世界があるので、今生での生き方次第では成仏できず、来世も苦しい思いをする。

だから、今生の生き方が問題になるわけです。

人間は煩悩の塊ですから、欲望や執着をなくすのは難しい。

欲望を断つために出家する人だっているわけです。

私は、修行とか、小難しい言葉を使うのは嫌いですけれど、苦しいことがあると考え直しますよね。考えることによって反省する。

でも、いまの時代は欲望のままになっている。だから、欲望のままのイジメや殺人が増えるんです」

中でも、この1年間で驚愕したのは、神戸で起きた教師のイジメ事件だったと佐藤さんは言います。

「同僚教師に無理矢理激辛カレーを食べさせる教師だけでなく、巻き込まれたくないから見て見ぬふりをする事なかれ主義の周囲の教師にも驚きました。

大正生まれの私はここ数年、日本人は劣化したと思ってきましたが、教育現場がこれでは劣化が止まるわけがない。

なぜ、これほど変な事件が起きるのかを知りたくて、この時は教育評論家の尾木直樹さん(尾木ママ)にお話を伺ったんです。

尾木さんが教師になった30年前も、赴任してきた新米教師の机や椅子がグラウンドの真ん中に置かれていたりしたそうです。

でもそれは、イジメではなくてイタズラ。旧制の一高には、寮に入ってきた新入生に、上級生が水をかける伝統がありましたが、新入りへの洗礼ですよ。イタズラされたら悔しいけれど、後になれば懐かしい思い出になる。

昔は、そういう大らかな考え方がありました。

それは親が、食事の時などに世間話をしながら、『お前、卑怯なことをしたらいけないぞ』といろいろな感想を漏らしたからです。

ところがいまは、何でも『良いこと、悪いこと』で分けてしまっている。

私もかなり怒る方ですが、テレビを見ていると、私よりもっと『あれをしてはいけない』『これをしてはいけない』と怒っている人がいますよ。

イジメとイタズラは全然違うのに、いまはイタズラもやってはいけない悪いこと。差別用語を使ったら人非人扱い。

作家仲間の遠藤周作が、『じゃ、ハゲはどうするんだ。毛の不自由な人っていうのか!』と怒っていましたけれど。四角四面で生きづらい世の中になったと思いますね。

良い、悪いと批判して自分が偉くなった気がするのかもしれませんが、いちいちうるせーな!と言いたい。こういう世の中に対しては、まだまだ文句を言いたいですね」

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佐藤愛子(さとう・あいこ)さん

1923年大阪府生まれ。69年『戦いすんで日が暮れて』で直木賞、79年『幸福の絵』で女流文学賞、2000年『血脈』で菊池寛賞、15年 『晩鐘』で紫式部文学賞受賞。17年に旭日小綬章を受章し、エッセイ集『九十歳。何がめでたい』が大ベストセラーに。近著は『冥界からの電話」。

この記事は『毎日が発見』2020年1月号に掲載の情報です。

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