「崖は落ちるためではなく、上るためにあるんですよ」91歳の歌人・馬場あき子さんインタビュー

新しい時代・令和も元気に活躍されている90代の皆さん。
お生まれになったのは、大正や昭和一桁の時代です。
大正から昭和、平成、そして令和へと――。数多くの経験に基づいたお話は参考にしたいことばかり。今回は、91才で歌人の馬場あき子さんに、いくつになっても日々はつらつと暮らすための考え方を伺いました。

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自分で忙しくしていることが元気の源。崖は落ちるためではなく、上るためにある

91歳 馬場あき子さん(歌人)

人間は好きな仕事をすることが大切

2019(令和元)年、文化功労者にも選ばれ、短歌界で第一線に立ち続ける馬場あき子さん。いつも若々しくハキハキしていますが、秘訣はどこにあるのでしょう?
「いつも元気なのは、自分で忙しくしているからだと思います。常に追っかけられながら仕事をしてきましたが、それは自分で求めた好きな仕事だったからよかったのでしょうね。
それに、私は教員もしていたので、考えてみると仕事を始めてから暇だった時がないんです」と話す馬場さんは、最近まで教え子のクラス会に誘われ出席していたそうです。
「生徒たちが先生あの時ああ話していたとか、私の言ったことをよく覚えているんですよ。楽しいですね」

続けて生き生きと過ごすには、どんなことから始めればいいのか秘訣を尋ねると、
「例えば、家庭にずっといらっしゃる方は外とのつながりを持つことが大切だと思います。家庭の中の主婦という位置づけから、社会の中に身を置くんです。私は短歌誌『かりん』を発行していますが、皆さん、会に入ると明るく元気になるから面白いですよ(笑)。新聞、短歌、歴史などいろいろ興味を持ち始めて、見聞を広め、自分が長い歴史の中の生活者の一人であり、広い社会の中の一人であると分かるんです。つまり、自分が歴史といまの社会の交差点にいることを自覚していくんですが、これが重要」

さらにどんなことにでも興味を持つことが大切と言います。
「例えば、道を歩いていてアリの巣穴を見つけたら、地下都市を作っているのではないかと空想するんです。そう考えただけでも楽しいでしょ?あらゆることが歌の題材になるので常にアンテナを張って過ごしています。この雑誌の通り、私の人生は、『毎日が発見』なんです!」 

生きていると、落ち込むこともしばしばあるはず。そんな時、どう乗り越えてきたのでしょうか?

絶体絶命のピンチでも必ず抜け道がある

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「意欲に変えるんです。よく落ち込んだ時、人は崖っぷちが見えるなんて言いますけれど、崖は落ちるのではなく、上るためにあるんですよ」
と笑顔で話す馬場さん。 

また、これから始める趣味として、短歌は最適といいます。
「短歌は鉛筆と紙があればいいから簡単ですよ。あとは自分の頭を変えればいいんです。私は歌が命なので、ずっと考えていますが、特に寝る間際が創作時間なんです。暗い中に横たわると、体が落ち着き、空想力が湧くんです。枕元に2つに折った紙を置き、右に上の句・左に下の句を書きます。私は魚や虫が大好きで、水族館にもよく行くんですが、魚にも顔があり、今日の魚は面白い顔していたなとかね(笑)」

テキパキした発言と底知れぬ力に引き込まれますが、こうなるまでにはいろいろ経験してきたそうです。
「戦争中は進め進めと言っていた大人たちが戦後は黙ってしまい、生き方を教えてくれなくなりました。これからどう生きていけばいいかを自分で判断するしかなかったんです。私は周りに個性的な人がいっぱいいていろいろなことを吸収できましたし、名言が詰まった世阿弥の『風姿花伝(ふうしかでん)』という本から多くを学び、いまがあります。
人間は言葉、経験など何でも自分の武器になるし、絶体絶命でも必ず抜け道があるんですから。面白いと思って生きないとね」

現在、全歌集を作っているそうでこれまでの馬場さんの詳細な歩みが分かる決定版ともいえる年表付きだそう。いまから待ち遠しいですね。

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馬場あき子(ばば・あきこ)さん

1928年、東京生まれ。歌誌「まひる野」に参加し、窪田章一郎に師事。教員生活ののち歌人で夫の岩田正とともに短歌誌『かりん』を創刊。戦後、喜多実に入門し、能にも造詣が深い。『葡萄唐草』で迢空賞、『阿古父』で読売文学賞など多数受賞。朝日歌壇選者。日本芸術院会員。94年紫綬褒章受章、2019年文化功労者。20年4月『馬場あき子全歌集』2巻組全1冊(角川書店)刊行予定。

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『短歌』一月号

(角川書店)

発売中の『短歌』一月号(特別価格970円 税込)の巻頭特別作品10首に馬場あき子さんの短歌「萩の根にゐる」が掲載されています。

この記事は『毎日が発見』2020年1月号に掲載の情報です。

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