京都府北部の丹後半島に位置する京丹後市は、100歳以上の人口の割合が、全国平均の約3倍にのぼる長寿地域。
なぜこれほどまでに長寿の人が多いのか、その理由を解明する取り組みが行われています。
京丹後市に住む高齢者の長寿の秘訣を探る疫学調査「京丹後長寿コホート研究」で、腸内フローラの研究を担当している京都府立医科大学消化器内科学教室准教授の内藤裕二先生にお話を伺いました。
健康長寿の背景に、昔ながらの質素な暮らし
長寿国として知られる日本。その中でも長寿の人が際立って多い地域が、京都府にあります。
京都府北部、丹後半島に位置する海沿いの町、京丹後市。
ここは人口あたりの百寿者(100歳以上の人)の人口比率が、全国平均の実に2.8倍(2016年時点)にのぼっています。
男性の長寿世界一としてギネス登録されている木村次郎右衛門さん(享年116歳)が生涯を過ごしたのも、この京丹後市。
なぜこれほど長生きなのか?
その長寿の秘けつを探る取り組みが、始まっています。
京都府立医科大学は、2017年に京丹後市に暮らす65歳以上の住民を対象とした「京丹後長寿コホート研究」をスタート。
明らかになったのは、高齢になっても血管年齢が若く、認知症の発症率も低く、大腸がんの罹患率も低いということでした。
つまり、京丹後の長寿者はただ長生きなのではなく、健康長寿である、という実態が見えてきたのです。
「その背景に何があるのか、我々の調査から見えてきたことは、結局は〝特別なことは何一つしていない〟ということです」。
そう話すのは、この研究で腸内フローラについて調査している、内藤裕二先生。
何もしないのに長寿とは、どういうことなのでしょうか?
「京丹後市は、少し前までコンビニエンスストアもない町でした。交通の便にも恵まれず、何でも手に入る便利な世の中とは無縁の環境で、質素な暮らしが続けられてきたのです。この〝昔と変わらない暮らし〟こそが、この町の健康長寿を作り出したと考えられます」
食事は1日3回腹八分目で調子よく
では、京丹後市の〝昔と変わらない暮らし〟とは、どのようなものなのでしょうか。
内藤先生が行った食事内容の調査から、京丹後市では麦や玄米などの全粒穀類を毎日食べている人が多く、さらに海でとれる海藻類、芋や豆など、その土地の食材をよく食べていることが分かりました。
つまり京丹後市の高齢者は、日々の食事で食物繊維を多く摂取しており、しかもその食事内容は、昔からほぼ変化していなかったのです。
「この〝食生活を変えない〟ということは、腸の健康を保つにはとても大切です。なぜなら、これまでの長い歴史の中で、腸はそういった食べ物になじんできているからです。いま、食の欧米化などにより、日本人の腸内環境が悪化していることが問題となっていますが、京丹後市はある意味、近代化の恩恵を受けなかったことで食生活が変化せず、腸の健康が保たれてきたといえます」
さらにもう一つ、京丹後市の長寿者の食生活に共通しているのが、土地に根付いた食べ物を〝ほどほど〟に摂取していること。
1日3食、腹八分目といいますが、男性長寿世界一の木村次郎右衛門さんに至っては、日々「腹六分目」だったそう。
生前に「食細くして命永かれ」との言葉も残されているそうです。
「飽食の時代を生きる現代人は、どうしてもカロリー摂取が過剰になりがち。でも京丹後市の長寿の方々は、自分たちで耕した畑や、近所の海や山から食料を調達するという生活を、世代を超えて続けてきました。この〝自分が暮らす地域でとれた食べ物を、ほどほどに食べる〟という食生活こそが、健康長寿につながったと考えられるのです」
京丹後市のここがスゴイ!
● 人口に占める100歳以上の割合、全国平均の約3倍
●大腸がんの罹患率が、京都市内の半分!
●全国的に比較して認知症の発症率が低い
●高齢になっても、血管年齢(※)が若い人が多い
※血管年齢についての高齢者のデータは、今回の「京丹後長寿コホート研究」(コホート研究代表 京都府立医科大学 循環器内科 的場聖明教授より)にて初めて明らかになったものです。
京都府北部の丹後半島に位置し、2004年、峰山町、大宮町、網野町、丹後町、弥栄町、久美浜町の6町が合併して誕生。人口5万1,813人(2019年10月1日時点)。
京丹後の百寿者に聞いた、よく食べている食材は?
魚類
1位 かれい
2位 はたはた
3位 いわし
だし
1位 煮干し
2位 かつお
3位 昆布
藻類
1位 わかめ
2位 のり
3位 もずく
肉類
1位 鶏肉
2位 豚肉
3位 牛肉
豆類
1位 大豆
2位 小豆
3位 えんどう
野菜類
1位 ピーマン
2位 大根
3位 かぼちゃ
取材・文/佐藤あゆ美