65歳以上で100人に1人が罹患! 脳神経科の波田野先生に聞く「パーキンソン病を防ぐための生活習慣」

高齢になると発症リスクが高くなる、指定難病の「パーキンソン病」。国内で約20万人が罹患、65歳以上では100人に1人が発症していると言われています。今回は脳神経内科の波田野先生にパーキンソン病を防ぐための生活習慣についてお聞きしました。

この記事は月刊誌『毎日が発見』2023年8月号に掲載の情報です。

【前回】脳神経科の波田野先生に聞く「60代後半から発症率が高まるパーキンソン病」は 小さな変化を見逃さない

「適切な治療により日常生活の維持も可能です。自己診断はせず、脳神経内科へ」

「パーキンソン病、レビー小体型認知症のどちらも、レビー小体の蓄積と、脳の神経細胞の変性(破壊)が認められます。レビー小体型認知症では、パーキンソン病より広範囲に神経細胞が壊れます。パーキンソン病は60代からの発症が多く、レビー小体型認知症は70代以上で増えてきます」と波田野先生は説明します。

パーキンソン病は、国の指定難病に認定されています。

「難病」という言葉を聞くと不安になる人も多いかもしれませんが、治療法はあります。

「パーキンソン病は、薬の処方や運動療法など適切な治療を受ければ、日常生活を維持しながら通常のことができる病気です。それには早期の発見が最も大事。放置して進行させると治療が難しくなるため、小さなことでも体の動きの変化が気になるようなら、早めに脳神経内科を受診していただきたいと思います」と、波田野先生は呼びかけます。

体を大きく使う運動でドパミンの分泌が増加

パーキンソン病は、健康的な生活習慣が予防の後押しをすることが分かっています。

「食事や睡眠などに気を付けるほか、運動によって脳を刺激することで進行を遅らせることができます。これは発症の予防にもつながると考えられています」と、波田野先生。

年を重ね、運動が億劫になり体を動かさない→筋力が衰え、体重が増える→さらに動けなくなる、という状態は、脳の神経細胞にも悪影響を及ぼす可能性があるそうです。

「無理にハードな運動をする必要はありません。コツは『体を大きく使うこと』。こうすることにより、ドパミンの分泌量が増えます。動作はゆっくりで構いません。座った状態でも寝た状態でも、上半身など動かせる部分を大きく動かしましょう。ラジオ体操をゆっくり行うのも一つの方法です」と、波田野先生はアドバイスします。

パーキンソン病は全ての原因が解明されておらず、いまは完治が難しい病気ですが、遺伝子治療と再生医療を応用した新しい治療法の研究も進んでいます。

2014年、順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科では、iPS細胞を使って、新しい治療薬の開発や病気の発症メカニズムを解明することを目的とした研究室を発足させました。

「パーキンソン病の治療に応用できるのはまだ先ですが、この研究によってさらに病態の解明が進み、新しい診断法が確立されることなども期待されています」と、波田野先生は話しています。

血液検査による新しい検出法
これまでパーキンソン病の検査では、脳画像検査(CTやMRI)で脳の状態を調べる以外に方法がありませんでした。波田野先生らの研究チームは、異常なα-シヌクレインを血液検査によって簡便に調べられる方法を開発しました。近い将来、実用化されることが期待されています。

パーキンソン病とレビー小体型認知症の関係
パーキンソン病とレビー小体型認知症は、姉妹のような関係です。パーキンソン病はレビー小体という物質がドパミンを分泌する脳の神経細胞にたまりますが、レビー小体型認知症も、思考などに関わる大脳皮質にレビー小体がたまることで発症します。パーキンソン病が進行すると、レビー小体型認知症のような状態になりやすいともいわれています。

パーキンソン病を防ぐための生活習慣

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睡眠や食事を十分に取る
規則正しい食事や睡眠は健康の基本。パーキンソン病では運動機能障害以外に、不眠やにおいがしないなどの症状が現れることがあります。異変を見逃さないようにしましょう。

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運動の習慣をつける
運動習慣によって脳を刺激することは、パーキンソン病の進行・発症の予防につながります。ラジオ体操や太極拳など、体を大きく動かす運動を意識して行うのがおすすめです。

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パーキンソン病になったら水分を摂る
パーキンソン病では便秘に悩む人が多いといわれています。解消にはこまめな水分補給が役立ちます。誤嚥に注意しながら、熱中症予防のためにも、少しずつ水分を摂りましょう。

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腸内環境を整える
近年、腸の状態と脳の病気が関係する「腸脳相関」が明らかにされています。ヨーグルトや発酵食品などで腸内環境を整えることは、脳の健康を保つためによいと考えられています。

パーキンソン病の治療法

薬物療法
運動機能障害を引き起こすドパミン不足を解消するため、ドパミンの補充や代替のほか、ドパミンの分解を抑えるなど、作用の異なる薬が処方されます。薬を使い分けることにより、長期的な効果の持続を目指します。

手術
薬と併用して「脳深部刺激療法(DBS)」といった外科的治療も行います。DBSは脳に電極を埋め込み、電気刺激で脳を活性化することにより、症状の軽減が期待できます。腹部の手術によって薬を持続的に投与する方法もあります。

リハビリテーション
薬と併用して早期段階から重視されているのがリハビリ。パーキンソン病と診断された直後から医師にすすめられるのが一般的です。体を動かして脳のドパミン分泌を促すことが、症状の軽減・進行の予防に役立ちます。

構成/岡田知子(BLOOM) 取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史

 

順天堂大学医学部附属順天堂医院
脳神経内科 先任准教授

波田野 琢(はたの・たく)先生

1999年、順天堂大学医学部卒。同部附属順天堂医院脳神経内科准教授などを経て、2011年より現職。国際パーキンソン病・運動障害学会学術大会プログラム委員、日本神経学会代議員、日本神経治療学会評議員なども兼任。

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