「やりたいけど、まあいいか...」いろいろなことを先延ばしにしがちなあなたに、生きるためのヒントをお届け。今回は、3500人以上のがん患者と向き合ってきた精神科医・清水研さんの著書『もしも一年後、この世にいないとしたら。』(文響社)から、死と向き合う患者から医師が学んだ「後悔しない生き方」をご紹介します。
「人間は死んだらどうなるか」という問いにどう答えるか
なぜこのように「死」は現代社会の中で避けられ、隠されてしまうようになったのでしょうか。
私はその理由について、次のように考えています。
人間は動物としての生存本能を持っているので、自らの死を予感させるものには強い恐怖を感じるようにできています。
例えば高所に立つとか、どう猛な動物に遭遇するとか、ピストルを突きつけられるとか、そんなときは強い恐怖感に襲われ、動悸や震えが起こるなど、心も体も強い反応を起こします。
一方で人間がほかの動物と明らかに異なるところは、「未来を予測できる」というところです。
死に対する恐怖を持ちつつも、自らの人生には限りがあり、いつか必ず死がやってくることを知っています。
これは、人間が進化したために生じた葛藤とも考えられます。
死を恐れつつも、そのことが避けられないという葛藤に対して、人はどうやって向き合ってきたのでしょうか。
時代をさかのぼって中世の頃では、多くの人が「死」について具体的なイメージを持っていました。
というのは、人は宗教を信仰し、その中で死後の世界が説明されていたからです。
「死んだあとに来世がある」、「良い行いをすれば極楽浄土に行くことができる」というような世界観を多くの人が信じていたのでしょう。
一方、現代社会では宗教を信仰する人の割合が相対的に低くなり、科学をベースにものを考えるようになりました。
しかし科学は「人間は死んだらどうなるのか」という問いに対しては納得がいく説明をすることができないので、「死」については謎が残ってしまいます。
そうすると現代人はどうするのか。
もっとも手っ取り早い方法として、説明ができない「死」については「考えることを避ける」という方法を、多くの人がとるようになったのです。
しかし、「死について考えないようにする」というやり方は、死の恐怖へ用いる対応の第一段階です。
表面的な応急処置のような方法なので、それほど死の問題に直面していないときにのみ有効で、「死」について頻繁に考えざるを得なくなる状況になるとあまり役に立たなくなります。
がんなどの命に係わる病気に罹患したり、大切な人が亡くなったりする経験があると、「死」の問題と直面せざるを得なくなり、表面的な対応から次の段階の対応に進みます。
そして、「死」という問題ときちんと向き合って考えるようになるのです。
正面から「死」についてきちんと考えるようになると、それまでの忌み嫌われるような恐ろしいイメージが変わっていきます。
亡くなった樹木希林さんの「死というのは悪いことではない」という生前の言葉が話題を呼びましたが、それは「死」と向き合った人にとってのひとつの真実だと思います。
「死」に向き合う際に、何を考える必要があるのかについては過去の心理学領域の研究である程度明らかにされております。
私はこれらをもとに、死にまつわる問題を3つに分類すると整理しやすいと思っています。
●人が「死」を恐れるのは何故か?
1.死に至るまでの過程に対する恐怖
―最後はどんなふうに苦しむのだろうか
―がんによる痛みはつらいのだろうか
2.自分がいなくなることによって生じる現実的な問題
―まだ子供が小さいので子供の将来のことが心配
―高齢の両親が悲しむし、その世話はどうするのか?
―今取り組んでいるライフワークが未完
3.自分が消滅するという恐怖
―死後の世界は?
―自分が消滅するってどういうこと?
そして、この3種類の問題は、それぞれ対処の仕方があるのです。
漠然としたままにすると得体のしれない不安や恐怖を感じますが、死にまつわる問題をきちんと考えていく中で、次第に恐怖の形は変わっていき、様々な備えができることがわかっていきます。
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病気との向き合い方、死への考え方など、実際のがん患者の体験談を全5章で紹介されています