外から入って来た視覚情報を正確に取り込む役割の「目」。目から得られた情報は、視神経を通して脳に伝わり脳で処理されます。しかし、目は加齢とともに見え方の質が少しずつ低下していきます。「緑内障」は10年ほどかけて少しずつ進行することがあります。自分では気が付きにくく、かなり進行してから受診する人も少なくないのです。ときには発見の遅れが治療効果を左右することも。
長年、目の治療を行っている眼科医の平松類先生に、緑内障についてお聞きしました。
失明を避けるためには早期発見がカギに
緑内障は視神経が傷つけられて、少しずつ視野が狭くなっていく病気です。進行すると失明に至ることもあるため、早期発見が重要です。「視野が欠けていても自覚しにくく、見えづらさを感じるのはかなり進行してからです。時々、片目ずつ見え方を確認すると、症状に気が付きやすいです。健康診断や眼科で詳しい検査をすれば早期発見につながります」と平松先生。
緑内障はだんだん視野が狭くなる
視野の一部にぼやけて見えにくい部分が生じる。自覚症状はまだ見られない。
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見えない部分が徐々に広がっていく。この段階でもまだ気が付かないことが多い。
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視野が狭まって視力が低下する。自覚症状が現れて日常生活にも支障が出る。
緑内障には、眼圧が高くなるものとならないものがある
緑内障には二つの種類があります。一つ目は、眼圧が正常よりも高くなり、視神経を圧迫するために発症します。
二つ目は正常な眼圧で発症する「正常眼圧緑内障」です。近年、日本人の緑内障の約7割を占めるようになりました。加齢などで視神経が弱くなることや、目の血流の低下などが原因ではないかと考えられています。
目の中で緑内障が起こるしくみ
①房水の流れが悪くなる
線維柱帯を通りシュレム管から排出される房水の流れが悪くなったり詰まったりする。
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②房水が増加し眼圧が上昇
房水が排出されにくい状態になったため、眼内に房水が増え過ぎて眼圧が高くなる。
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③視神経を圧迫する
眼圧が上昇すると、目の奥の視神経が圧迫されて傷つくため、視野が欠けていく。
視野を保つために眼圧を下げる治療を行う
緑内障で欠けた視野は元には戻らないため、治療は症状の進行を防ぐことが目的となります。
早く治療を始めれば、それだけ視野を多く残すことができます。
治療は眼圧を下げるための点眼薬が基本です。正常眼圧緑内障の人も、点眼薬で眼圧をさらに下げる治療を行います。
「点眼薬は毎日使うので、何種類も処方されると点眼に手間取ります。複数の薬を配合した『合剤(ごうざい)』を処方してもらえば、負担を減らせます」と平松先生。
点眼薬で眼圧が下がらない場合は、房水の排出を改善する手術を行うことがあります。
「最新の手術方法に低侵襲緑内障手術「MIGS(ミグス)」があります。手術の切り口が小さいため、体への負担が少なく、手術時間も10分ほどです。保険が適応され、白内障手術と同時に行うこともできます」
生活習慣を見直して目の血流を良くする
「目の血管は非常に細いので、血流障害を起こしやすく、それが緑内障の原因になることがあります」と平松先生。
血流を良くするには適度な運動をして、ストレスをためない生活を心がけます。
寝る前にスマートフォンを見るのは、睡眠の質が下がるので避けた方がいいでしょう。
規則正しい毎日を送り生活習慣病を防ぐことが、緑内障の予防になるのです。
緑内障の早期発見には眼底カメラやOCTで検査を
正常眼圧緑内障を早期発見するには、眼底カメラやOCT(光干渉断層計)で網膜の表面や断面を調べます。
一般の眼圧検査では発見できない初期症状を見つけることが可能です。
眼底カメラやOCTは、通常の健康診断に含まれていない場合が多いので、追加検査で選択します。
取材・文/松澤ゆかり イラスト/はせがわめいた