外から入って来た視覚情報を正確に取り込む役割の「目」。目から得られた情報は、視神経を通して脳に伝わり脳で処理されます。しかし、目は加齢とともに見え方の質が少しずつ低下していきます。特に「白内障」は50歳代から患者が増え始め、60歳代では約70%、80歳以上になるとほぼ100%の人に見つかります(※)。長年、目の治療を行っている眼科医の平松類先生に白内障治療に使われる眼内レンズについてお聞きしました。
※出典:Minas「科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究」(2002年)
レンズの選択肢が増えて自分に合うものが選べる
白内障手術では、角膜に小さな穴を空けて、超音波で水晶体を砕いて吸引し、人工の眼内レンズを入れる方法が主流です。「手術時間は10〜30分です。体への負担が少なく、日帰り手術も可能です」と平松先生。
眼内レンズには三つの種類があります。最も使われているのは「単焦点レンズ」で、約9割を占めます。
「単焦点レンズ」は、「近く」か「遠く」のどちらにピントを合わせるかを選択します。
読書や手芸が好きな人は「近く」、車の運転やスポーツをする人は「遠く」が見えるレンズなど、自分の生活を考えて選びます。
「多焦点(2焦点)レンズ」は「近く」と「遠く」の両方が見えるレンズで、10年ほど前から使われています。「3焦点レンズ」はこれまで海外製が使われていましたが、国内での製造販売が2019年に認可されました。
平松先生は「多焦点レンズや3焦点レンズを使用すると、眼鏡をかけなくても生活しやすくなります。
多焦点レンズは『中間』の距離が見えにくいため、『思ったより見え方が悪い』と感じる人もいるようです。一方、3焦点レンズは『中間』にもピントが合うので、見えにくさを感じるケースが減ると考えられます」と話します。
白内障手術に使われる3種類の眼内レンズの特徴
◎単焦点レンズ
ピントを遠くに合わせた場合
〇見え方
「近く」または「遠く」のどちらかにピントが合う。他はぼやける。
〇メリット
・ピントが合う距離のものは鮮明に見えることが多い。
・手術は保険適用で行える(片目で3〜5万円)。
〇デメリット
・手術後も「近視用眼鏡」または「老眼鏡」が必要。
◎多焦点(2焦点)レンズ
〇見え方
「近く」「遠く」の両方にピントが合う。「中間」の距離はぼやける。
〇メリット
・手術後は「近く」と「遠く」の両方が見やすくなり、眼鏡がなくても生活しやすい
〇デメリット
・夜間、光がにじんだり、まぶしく感じることがある。
・自由診療なので費用が高額(片目で30〜50万円)。
◎3焦点レンズ
〇見え方
「近く」「遠く」「中間」の3点にピントが合う。
〇メリット
・「中間」の距離が見やすいので、テレビを見たりパソコンを操作することなどが円滑に行える。
〇デメリット
・手術を行える病院が少ない。
・自由診療なので費用が高額(片目で30〜50万円)
手術後は感染症などの合併症に気を付ける
白内障の手術後に起こりやすい合併症は「感染症」です。
手で目をこすってしまうと、そこから細菌が入ることがあります。
「手術後3日以内に感染症を起こすと、失明する恐れがあるので、目をこすらないように注意が必要です。また、手術の1カ月後ぐらいに目の奥に炎症が起きることもあります。処方された目薬を数カ月間、きちんと使います」と平松先生。
手術後は光が目に入りやすくなり、まぶしさを感じますが、次第に落ち着いてきます。
外出時は紫外線が目に良くないので、サングラスや日傘、帽子などを使用する配慮も必要です。
「急激な視力低下や目に強い痛みがあるときは、すぐに眼科を受診してください」と平松先生は話します。
白内障の最新手術はレーザーを使って行う
白内障の手術でレーザーを用いる方法があります。レーザーを使うと、水晶体を取り囲む膜を切開するときに、正確な円形に切ることができ、切り口もきれいです。自由診療なので、レンズの種類によっても異なりますが、費用は片目で30〜60万円ほどかかります。
取材・文/松澤ゆかり