命に関わるさまざまな病気を引き起こす高血圧。国内に4300万人はいると推計される一方、対策が続かなかったり放置したりしている人は3100万人。そこで10人の名医が本気ですすめる、最新の高血圧を治す方法をご紹介。今回は赤坂ファミリークリニック 院長の伊藤明子(いとう・みつこ)先生に、「無理なく減塩して血圧を下げる方法」をお聞きしました。
【前回】第2の心臓と呼ばれる「ふくらはぎ」の血流アップ! 血圧を下げる効果が期待できる「2秒かかと上げ」
減塩がラクになる科学的な理由がありました
塩味をおいしく感じる仕組みには、体の中で塩分を必要とするリセプター(受容体)の働きが関係していることが分かってきました。
塩分リセプターは、舌や口腔内、食道、腸などに広く分布しています。
体の仕組みを知ってゆっくり、無理なく減塩
「減塩にがまんは禁物。摂取塩分をゆっくり減らして、体が塩分の少ない状態に慣れていけば減塩は難しくありません」と、伊藤明子先生。
最近の研究では、塩分を摂取すると、体のさまざまな部位に存在する塩分を感じる細胞膜にある塩分リセプター(受容体)が働くことが分かっています(上記参照)。
摂取塩分を少しずつ減らすことは、塩分リセプターの働きを徐々に抑え減塩に慣れていくことにつながると考えられます。
これは塩分と高血圧に関する作用の一つですが、体の仕組みを知ることは減塩への取り組みに役立ちます。
4つの工夫でラクに減塩
だし
だしを食事の中でたっぷり使うことで減塩が可能に。特に和食は、グルタミン酸(海藻など)、イノシン酸(かつお節など)、グアニル酸(きのこなど)と、うま味の種類が豊富。塩分で味を濃くしなくても、素材の味を引き立たせた料理を楽しめます。
食物繊維
きのこや海藻、雑穀、ごぼうなどに含まれる食物繊維も、減塩に欠かせません。食物繊維には、塩分を取り除く働きのある、カリウムや繊維質などの成分が豊富で、食物繊維をしっかりと摂ることで、体内の余分な塩分を排出することに役立ちます。
たんぱく質
朝にしっかりたんぱく質を摂取すると、その後の食べ過ぎを防いで塩分の摂り過ぎを避けられます。1食あたりの目安は、手のひら1杯分(重さ100g)の肉か魚。十分にたんぱく質を摂取して筋肉を作れる体になることは、フレイルや転倒の予防にも。
酸味
レモンなどの柑橘類や酢といった酸味のある食材を上手に使うことも減塩に効果的。例えば、「刺身にはしょうゆではなく、すだちやレモンを垂らす」「揚げ物にレモンをたっぷりかける」といった具合です。料理に柑橘類を添えて一緒に食べるのもおすすめ。
塩分を摂り過ぎると、血液中の塩分濃度が高くなります。
すると、塩分濃度を下げようと体は水分をため込み、血液量が増えて血圧が上がります。
最近では、塩分摂取と体の炎症が関係していることも分かっています。
「塩分を摂るほど体の中では炎症が起こり、血管を傷つけていきます。それを修復しようと白血球細胞が増えることで血管が狭くなったり、硬くなったりして血圧が上昇します。血管を健康に保つためにも、塩分摂取量を減らすことが大切です」
高血圧の治療に生かされている食事法にDASH食があります。
DASH食は、1990年代に米国のNIH(※)が考案・発信した減塩、野菜たっぷりの食事療法です。
それも参考に、伊藤先生が食事の工夫としておすすめするのが上の4つのポイント。
また、忘れてはならないことに水分摂取があります。
「血圧が高めの人は、水を飲むことを忘れがちな人が多くみられます。1日1.5L程度の水をちょこちょこと飲んでください」
食事の工夫と適切な水分補給でゆっくり、減塩しましょう。
※NIHは、National Institutes of Health015 の略称で、アメリカ国立衛生研究所。
取材・文/寳田真由美(オフィス・エム)、イラスト/鈴木衣津子