「がん予防」というと、どんなイメージがあるでしょうか。様々な健康情報がありますが、がん専門医であり、予防医療のヘルスコーチとして活動する石黒成治さんは、がん予防の1つとして「筋トレ」を習慣づけることを勧めています。そこで今回、石黒さんの著書『筋肉ががんを防ぐ。専門医式 1日2分の「貯筋習慣」』(KADOKAWA)より、著者が考える筋トレとがんの関連性や、具体的なトレーニング方法などを厳選して紹介します。
※本記事は石黒成治著の書籍『筋肉が がんを防ぐ。 専門医式 1日2分の「貯筋習慣」』から一部抜粋・編集しました。
【前回】「運動」が乳がんリスクを下げる可能性!? まずは30分の運動を継続することが鍵!
加齢で筋肉は加速度的に失われる
日本では高齢化が進んでいると言われていますが、これは世界中で起こっている現象です。
2050年には65歳以上が15歳以下を上回る人類史上初の状態になると予想されています。
高齢になるにつれて高血圧、糖尿病、高脂血症などのなんらかの慢性疾患を抱えている人も増加することになります。
筋トレを行うことはがんの予防だけでなく、高齢に伴う様々な慢性疾患を予防改善する特効薬になり得ます。
40代を超えるとほとんどの人が、体力が落ちていることに気がつきます。
それは走ったりジャンプする機会にすぐにわかります。
交差点で信号が点滅したので少し駆け足してみたときに全然走れないとか、ガードレールなど何かを飛び越えるときに足がうまく上がらないとか、階段を少し急いで上ると息が上がってしまうとか。
現代人は移動に車や電車を利用し、エスカレーター、エレベーターで階を上がり、仕事・勉強中は基本座ったままの生活をしています。
こういった時間を積み重ねていくにつれて徐々に体が退化していきます。
その中でも顕著に衰えるのが筋肉です。
筋肉の退化は30代から始まります。
特に筋力トレーニングなどを行わなかった場合は平均年間250gずつ筋肉を失っていきます(Am J Clin Nutr. 1999)。
そして50代になると失う速度は加速していき、50歳から75歳の間に全身の筋肉が25%失われます(Am J Physiol. 1997)。
もちろん様々な身体活動の程度によって失われる量は違いますが、50歳を超えて筋肉を維持するための運動をしていない場合は身体的な衰えは著しくなります。
加齢に伴って認められる筋肉の量と質の低下は、サルコペニア(加齢性筋肉減弱症)と呼ばれます。
サルコペニアは現在75~79歳で男女とも20%、80歳以上では男性の30%、女性の50%に上ります(J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2021)。
サルコペニアの問題点は筋肉の低下に伴う運動能力の低下だけではありません。
筋肉から分泌されるホルモンであるミオカインIL-6は抗炎症効果を発揮することはお話ししました。
現在では筋肉から誘発されるIL-6は糖の代謝、脂質の代謝を改善する効果があることがわかっています(Diabetes. 2006)。
運動によって誘発されるBDNF(脳由来神経栄養因子)という物質は脳神経の再生と神経のネットワークの構築を促し、認知機能を改善します(Pflügers Arch. 2019)。
ミオカインには骨の機能を改善したり(Bonekey Rep. 2016)、新たな血管を作り出す効果もあることがわかっています(J Sports Med Phys Fitness. 2012)。
筋肉を失っていくということはこういった体の機能が徐々にむしばまれていくことを意味します。