最近、世界的な企業が哲学者を招き、未来を見据えた経営に行っています。それはヒトの繁栄が生きる道だと認識されているからです。国内経済の低迷は続いていますが、過去日本には「ヒトを追う」経営者がいました。故松下幸之助の側近だった江口克彦は間近で仕事に携わり、23年間に渡って経営の厳しさと妙味を体感してきました。松下翁からの聞き書きした形で経営のコツをまとめた著書『こんな時代だからこそ学びたい松下幸之助の神言葉50』(アスコム)からリーダー論などをご紹介します。
明確な方針を打ち出す
わしはいままで長い間経営というものに携わってきたけど、方針というものをいつも明確にしてきたな。
こういう考え方で経営をやるんだ、こういう具体的な目標を持って経営を進めるんだ、こういう夢を持っていこうやないか、と常に従業員の人たちに話し続けてきたんや。
どうしてこういうように方針を出してきたかというと、人は誰でもそうやけど、自分が一所懸命努力して、これならいい結果を出したと思って、それで上の人に報告したら、そんな結果は期待しておらんかった、そう言われるぐらい辛いものはないわなあ。
ましてや叱られ文句を言われたらもう泣きたくなるわな。
それはどちらがアカンかというと、上の人やな。
上司というか責任者やな、その人がはっきりと方針を出しておらんから、そういうことになるんやな。
方針によって従業員は自分の努力の方向を知るんや。
こういう考え方でやらんといかんのやな、こういう目標に取り組まんといかんな、とか分かるわな。
それだけではなく、夢というか理想というかそれがはっきりしておれば、自分の努力が結局どこにつながるのかよく分かるわけやな。
そうすれば従業員は一所懸命努力して、大抵は期待通りの結果を出してくれる。
そういうもんや。
基本理念や具体的目標、それに理想(最終目標)という三つの内容を持った、そういう方針というものを出さん指導者は失格だということになるわな。
それにそういう方針を明確にしておくと、経営者自身も自分の判断や行動の物差しができるから、力強い動きができる。
経営をしておると、いつもいつも迷うことが多いわね。
右にしたらいいのか、左にしたらいいのか、分からんと。
はっきりと見分けられるものならいいけど、そういうものは案外少ない。
どうしようかと迷う。
そんなときにこの方針に照らして、右に進んだらいいのか、左に進んだらいいのか考える。
そうすると、大抵はどうしたらいいのか分かるわけや。
その方針がしっかりとしていると、そして経営者がいつも必ずその方針を守ると、経営者の行動に非常に力強いものが出てくる。
そういう経営者は従業員からも、なかなかしっかりした、一本筋の通った人やなあということで、尊敬もされるわな。
頼りになる人や、こんな人に経営を任せておけば大丈夫だと、そういうことになる。
給料も間違いなく貰えるなということになるやろ。
お客さんも取引先も、そういう方針があればその会社がどんな考え方か、どういうところを目指しているか分かるからな。
ああいう考え方ならば、その会社の製品を買ってあげよう、それならばその会社と一緒に仕事をしてもいいということにもなるな。
方針が明確にあるということは、いわば会社の信頼にもなる。