社員が個性を発揮するには明確に方針を打ち出す/こんな時代だからこそ学びたい 松下幸之助の神言葉50

命を懸けて方針を決める

方針の決め方か。

それはな、まず経営者が自分で考えて考えて考え抜いて、自身で心の底から、うん、そうだ、これだ、と思うものでないといかんね。

たとえそれが素朴な言葉であっても、悟るというか、ハッとするものね、そういうものを方針として決めんといかん。

それをただ何か本を読んでいい言葉を見つけたり、他人の話を聞くだけで方針を決める、というようなことではあかんわけや。

そしてそれだけではなく、さらに誰が考えてもそうだと納得できるようなものでないとだめやね。

経営者だけでなく、従業員も株主もお客様もみんながそういう方針ならば賛成できます、納得できますというような方針。

そういうものでないといかん。

経営者が一人だけ喜んでおるような方針ではあかんわな。

けどなあ、実はそれだけでもいかんのや。

広く世間様がどう思うか。

世の中の多くのみなさんが、お客様やお得意様だけではなく世の中の方々みんなが、それはいいと賛成してくれるものでないといかんわな。

さらには天地自然の理にかなっているかどうか、ということも考えんといかん。

宇宙全体には生成発展するという理法がある。

そういう生成発展するような内容で方針が作られておるのかどうかいうこと。

まあ、そういうことやから、方針を決めるということは経営者にとってすれば、並大抵のことではない。

全身全霊、命を懸けてするもんや。

基本理念もな、具体的目標もな、夢というか理想というものも、経営者自身の、いわば悟りなんや。

わしも会社の基本理念を決める前は悩み続けてたわけや。

商売しながら、昔は一般通念として商売するということが、なんか後ろめたいような感じがあってな、それはどうしてやろうかと悩んだ。

なんで商売に後ろめたさがあるのか。

それにわしの店の近所に同じ仕事の店を出す人がいて、それでおのずと競争になる。

ところが競争になれば大抵わしのほうがうまくいくんや。

それはいいのやけれど、その店がそのたびに、だんだん不景気になって、ついには潰れてしまった。

お互いに競争だから仕方がないと言えば言えるけれど、さあわしは困った。

こちらがよくなれば向こうは悪くなる。

そう考えると自分はこういうことをしておってもいいのかどうか。

商売というようなことをやっていいのかどうか、悩むわな。

だから、おのずとわし自身の仕事に取り組むのも力弱くなってな。

そこでなぜ自分は物を作って商売しているのだろうか。

果たしてこれでいいのかと考え込んでな。

けどいくら考えても結論は出んわけやな。

 

江口克彦

一般財団法人東アジア情勢研究会理事長等。故松下幸之助の側近として23年間、氏と語り合い、指導を受けた伝承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も精力的に活動し、参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。

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『こんな時代だからこそ学びたい 松下幸之助の神言葉50』

江口克彦/アスコム)

社員のため、世の中のために企業が存在している。その実現のために経営者は明確な方針を打ち出し、企業理念、具体的目標、理想を考え抜かなければならない。この冒頭に書かれた十数ページの内容が日本に合ったビジネスのあり方といっても過言ではない。カネ・モノありきの社会に疑念を抱いている人に読んでもらいたい一冊。

※この記事は『松下幸之助の神言葉50』(江口克彦/アスコム)からの抜粋です。

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