脳は思い込みで自然に視野を狭める/なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?

夫婦や親子、仲が良い友人でも思っていることはなかなか伝わらないものです。実は、その原因は脳タイプが違うからかもしれません。そこで、脳科学者・西剛志先生の著書『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)より脳タイプ診断、脳には偏りがある現実など脳が作り出す人との違いをご紹介します。

【前回】脳は環境によって人の印象をも変える/なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?

【最初から読む】同じものを見ても脳ごとに認識は違う/なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?

この絵の中に時計はいくつありますか?

脳は思い込みで自然に視野を狭める/なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか? nazeanatano-004-145.jpg

正解は5つです。

それでは、もうひとつ問題です。

前の絵にバケツはいくつありましたか?

前に戻らずに答えてください。

ブランドのバックを手に入れると、街中でよく見かけるようになる

バケツの数はわかりましたか?

答えは5つです。

ちょっとずるい質問ですよね。

では次の問題はいかがでしょうか?

目を閉じて、あなたの部屋に黒いものがいくつあるか答えてください。

いかがでしょうか?

おそらく、ほとんどの人が正確に答えられないと思います。

目を開けると、思っている以上に、黒いものがあることに気づきます。

いつも見ている部屋ですが、「見ているようで見ていない」のです。

さて、こんな経験はありませんか?

奮発してブランドのバックを買ったら、やけに同じバックを持っている人が多いことに気づいた。

この色はめずらしいと思って洋服を買ったら、いたるところで同じ色の洋服を着ている人を目にするようになった。

新しい車を買ったら、街中で同じ車が走っているのを見かけることが多くなった。

思い切ってショートヘアにしたら、最近ショートヘアの子が増えたように感じる。

同じブランドのバックや同じ色の服、同じ車、そして同じ髪型の子が、突然、目の前に現れるようになったわけではありません。

あなたがそう感じる以前から、バッグも洋服も車もショートヘアの子も、変わらずにいたはず。

気づかなかったのは、脳が関心のあるものだけを選んで見ていたからなのです。

こうした、ある意味脳の勝手な情報の取捨選択は、あなた自身の思い込みや偏った常識などから引き起こされます。

そして、その思い込みや偏った常識を心理学用語では「認知バイアス」といいます。

そんな認知バイアスは、実は、私たちの「なんでわかってくれないの?」「なんでそうなるの?」といったわかりあえない状況をつくっている原因の1つです。

では、このバイアスの世界について話していくことにしましょう。

脳は「見たいもの」を選んで見ている

「なんだか話がかみあわない」

「あの人の言うことは、どうもよくわからない」

同じ空間にいても、人はまったく異なるものを見ています。

あなたが見ているものと、あなたと一緒にいる人が見ているものは違うのです。

あなたは、あなたが見たいものを見ているし、一緒にいる人は、その人が見たいものを見ています。

まさに、脳のバイアスがそうさせています。

人間は、自分の関心があるもの以外は、見ていないのです。

それを立証した有名な実験が、1999年にハーバード大学のダニエル・シモンズ博士とクリストファー・チャブリス博士が行った『見えないゴリラの実験』です。

内容は、バスケットボールの試合の映像を見せて「何回パスをするか?」を数えてもらうというもの。

実は映像内で着ぐるみの大きなゴリラがダンスを踊っているのですが、普通は気づくはずのゴリラに約半数の人が気づくことができません。

どうして見えなかったかというと、パスの回数ばかりに関心があり、ゴリラが見えていてもゴリラの情報を脳はスルーしてしまったからです。

こうした自分がほしい情報ばかりを集め、それ以外の情報は無視して見えなくなってしまうことを、脳の「選択的注意」もしくは認知バイアスの中の「確証バイアス」といいます。

こんな話がありました。

「友人が信じられなくなりました。先日パーティで、私が離婚していることをほかの人に話しているのを聞いてしまったのです。悪口を言われるなんてショックでした」というのです。

よくよく聞いてみると、そのご友人は別に悪口を言っていたわけではなく、ほかの方の相談に乗っていて、あくまでも一例として彼女に離婚経験があることを話していたようなのです。

ですが、それ以来彼女は、「選択的注意」が働いて、やけに離婚に関するワードや自分に対するよくない評価の言葉が聞こえるようになってしまったのです。

よい評価をされていても、マイナスな情報ばかりに意識が向き、よい情報を脳が認知できなくなってしまっていました。

そして、脳はマイナスな情報が何度も入ってくると、だから「私は人から評価されていないんだ」と確証するようになり、思い込みがより強固になってしまうのです。

この現象は、別名「バーダー・マインホフ現象」ともいわれますが、今まで意識していなかったものを意識するようになると、無意識にバイアスが強く働き始めるようになります。

つまり、それまで所有していなかったブランドのバックを手に入れると、やけに同じバッグが目に入るようになるのは、「選択的注意」で目の前にあるたくさんの情報の中から、同じブランドのバックに注意が向けられるようになったからです。

そして、何度か同じバックを目にすることがあると、確証バイアスの作用でバッグの情報ばかりを集めるようになり、「最近、私と同じバックを持つ人が増えているんだ」という思い込みが確信に変わっていきます。

バーダー・マインホフとは、元はドイツ赤軍のテロリストグループの名前です。

ある新聞記者が友人とバーダー・マインホフの話をした翌日に、友人から「ニュースで見た」という連絡を受けて驚いたという体験談を新聞に投稿したところ、同じような体験談がほかの読者からも次々に投稿されるようなりました。

このことから、認識したとたんによく目にするようになる現象のことを「バーダー・マインホフ現象」ということで広まったといわれています。

【次回】同じ言葉でも人それぞれ連想は違う/なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?

【まとめ読み】『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』記事リストはこちら!

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自分の脳と他人の脳が作り出す違いについて全5章にわたって詳しく解説。脳タイプ診断テスト付き

 

西 剛志

脳科学者(工学博士)、分子生物学者、T&Rセルフイメージデザイン代表/自身の夢を叶えてきたプロセスが心理学と脳科学の原理に基づくことに気づき、2008年に世界的にうまくいく人物の脳科学的なノウハウを提供する会社を設立。企業や個人に至るまで約1万名以上をサポートしている

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『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』

(西 剛志/アスコム)

同じものを見ても、人はまったく同じ認識ができません。なぜでしょうか? そんな不思議を脳科学の観点から例を挙げて解説してくれる良書。脳のタイプを3つにわけ、気軽に診断した上で脳が左右されている環境などについて専門家が語ります。

※この記事は『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(西剛志/アスコム)からの抜粋です。
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