定年後には夫婦で新たな「ルール作り」を!夫が家で居場所をつくる方法

歳を重ねるとともに増えていく、病気、孤独、お金などの不安...。世界共通の悩みと思いきや、「フランス人」は老いることを「人生の収穫期」と考えて、楽しく過ごしているそうです。外交官から仏修道会の介護ボランティアに転身した賀来弓月さんの著書『60歳からを楽しむ生き方 フランス人は老いを楽しむ』(文響社)から、フランス流の「人生を前向きにとらえる10のヒント」を連載形式でお届けします。

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夫婦関係を豊かにすることが定年後の幸せを生む

近年、フランスでも、就職難を背景に、独り立ちできずに両親との同居を続ける若者が増えているそうです。子どもが家を出て自活できるようになると、親はホッと胸をなでおろす反面、寂しさを覚えます。

子どもたちが巣立った後の家庭で大切になるのが、夫婦の絆です。フランスの夫婦が定年後の生活にどう向き合っているか、その一例を紹介しましょう。

大手スーパー本社の企画部門でコンピューター処理などをしていたマルセル・デュラン氏。65歳で定年退職し、暇をもてあましていました。老後に少し贅沢するには資産的な不安もあり、再就職先を探しました。でも、キャリアを生かすことができそうな職場を見つけることはできませんでした。正直なところ、フランスでは日本ほど高齢者の再雇用が進んでいないのです。

「何もすることがない」と思われた日々は、デュラン氏を少しずつ苦しめていきました。「もう自分は社会に必要とされていないのか?自分の技術や経験は世の中の役に立たないものだったのか?」そのうちに、生きる意欲を失い、心身の不調を訴えるようになります。うつ病の症状を疑われ、病院に通いました。そんなデュラン氏に妻はこういったのです。

「今もらっている年金で十分暮らしていけるではありませんか。自分の知識や経験、技術を伝えたいと意気込んでも、再就職する会社で快く受け入れられるとは限りません。最先端の技術を身につけている若者たちから『時代遅れの老人』などと陰口をいわれたら、もっと辛くなるのではありませんか?それに、これまで長い間、私を独りにしてきて、定年後も同じことを続けるおつもりなの?私は、定年後はふたりで一緒にいろいろなことをして過ごすのを楽しみにしていました」

デュラン氏が自宅でインターネットによる販売ビジネスをしようと考えていると打ち明けても、妻は首を縦にふりませんでした。夫人は、デュラン氏とゆったりとした日々を過ごすことを望んでいたのです。しかし、デュラン氏の自己実現への欲求をすべて否定することはしませんでした。

「あなたの技術を後世に伝えたいと思うならば、貧しい家の子どもたちに無料でパソコンスキルやプログラミングを教えたらいかがでしょう?子どもたちの将来にきっと役立つでしょう。それならば、私も協力します」と言ったのです。

デュラン氏は、この言葉で、妻ともっと向き合って生きていくことを決意したそうです。家族を犠牲にしなくとも、社会に対する自分の価値を実感することはできると気がついたのです。

その後、次の6つのことを夫婦でやっていこうと話し合いました。

第一に、毎週土曜日の午前中に近所の子どもたちのために無料のパソコン教室を開くこと。夫人は、子どもたちのためにクッキーを焼くこと。

第二に、晴れて気持ちがいい日には、お弁当を持って夫婦で散歩や遠足に出かけること。

第三に、週に1回はふたりでヨガ教室に通うこと。

第四に、ふたりで老人ホームを訪れて、高齢のいとこや他の老人たちの話し相手になること。

第五に、年に1回は、温暖な気候の南西フランスの海岸でバカンスを過ごすこと。

最後に、毎年クリスマスには娘夫婦や孫たちと一緒に過ごすこと。

夫婦ふたりでルールを決め、向き合う時間を意識的に設けることで、デュラン氏の心は少しずつ満たされていったそうです。定年後の生き方を示唆した妻に感謝していると私に語りながら、氏は涙ぐんでいました。

デュラン氏夫妻の自宅の台所にはこんな市販のポスターが貼られていました。

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夫人は、「ポスターは主人に毎日大きな声で朗読させるために貼ってあるのです」といって、大声で笑いました。

仕事や子育てに追われている現役時代は、夫婦で向き合う時間はなかなか取りにくいもの。定年後、新たなスタートを切るつもりで、夫婦で語り合い、夫婦のルールをつくってみてはいかがでしょうか。

日本の男性のために、そのようなルールの中には、「皿洗いをする」「ゴミ出しをする」「庭掃除をする」など、夫として分担すべきさまざまな家事を入れておくことを勧めたいと思います。定年後の家事の分担は、男性にとって生き方を変えるチャンス。家庭の中に役割を持ってこそ、男性は自分の居場所を確保することができるのです。

『夫婦ふたりでルールを決め、向き合う時間を意識的に設ける』

フランス人に学べば老後は楽しくなる!『60歳からを楽しむ生き方』記事リストはこちら!

051-syoei-france.jpg「美しさとは何か」「オシャレの楽しみ方」「孤独の捉え方」など10の項目から、老いを楽しむフランス人の人生観が分かります

 

賀来弓月(かく・ゆづき)

1939年、愛知県生まれ。1960年外交官上級試験合格、61年名古屋大学法学部卒、外務省入省、英オックスフォード大学大学院留学(外務省在外上級研修員)。外務省退職後、清泉女子大学非常勤講師、NPO法人アジア近代化研究所特別顧問。主な著書に『内なるものと外なるものをー多文化時代の日本社会』(日本経済評論社)など。

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『60歳からを楽しむ生き方 フランス人は老いを楽しむ』

(賀来弓月/文響社)

年齢を重ねると孤独感や焦燥感、死への恐怖心にさいなまれる…。そんな不安を、フランス人が考える「老いの愛し方」で払拭してくれる一冊。フランスの高齢者がオシャレや食事をどう楽しんでいるのか、その生き方を見習えば、老いも光輝く人生の一部になるはず。

※この記事は『60歳からを楽しむ生き方 フランス人は老いを楽しむ』(賀来弓月/文響社)からの抜粋です。
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