念願の「訪問介護」を開始したとたん、思わぬ「ドロボウ」が出現して...!?/別居嫁介護日誌

「妊娠・出産・育児」をすっとばして、いきなり「介護」が始まった! 離れて暮らす高齢の義両親をサポートしている島影真奈美さん。40代にさしかかり、出産するならタイムリミット目前――と思っていた矢先、義父母の認知症が立て続けに発覚します。戸惑いながらも試行錯誤を重ね、いまの生活の中に無理なく介護を組み込むことに成功。笑いと涙の介護エピソードをnoteマガジン『別居嫁介護日誌』からご紹介します。なんとなく親の老いを感じ始めた人は必読!


こんにちは、島影真奈美です。食生活改善のために導入した宅配弁当の配達回数をめぐって、義母と丁々発止のやりとりになった前回。いよいよ、次は訪問看護の導入です。当初は他人が家の中に入ることに難色を示していた義父母も、医師に説明され、しぶしぶOKしてくれました。すると、介護のプロの視点が加わることで、これまでわかっていなかったことが次々に明るみに出ることに......!

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介護サービスを利用したいけれど、親がイヤがるので頼めない。あるいはせっかく頼んだけれど、断らざるを得ないケースがあるとは聞いていた。うちも正直なところ、義両親がどのような反応を示すのか、実際に介護サービスが始まるまで見当がつかなかった。

もの忘れ外来で医師に、訪問介護(ヘルパー)などの利用をうながされたとき、いち早く難色を示したのは義父だった。
「家内はそういうのをいやがると思うんです」
「どうしていやがると思うんですか」
「近所の目を気にするところがあるんです」
「ご近所の方はもうご存じだと思いますよ。この病気はね、近くにいる家族は気づかなくても、かえってご近所さんぐらいの距離のほうがわかるんですよ」
「......」

義父は医師の説明に合点がいったのか、ショックを受けたのか、黙り込んでしまった。義母は自分のことが話題になっているのに、素知らぬ顔をしていた。

結局、義両親は「介護サービスを利用していい」とは言っていない。ただ、私たちは「利用したくない」「手続きをしないでくれ」とも言われていないので、医師の勧めに則ったテイで手続きを進めてきた。

担当ケアマネ・鈴木さんと相談し、民間サービスの

(1)宅配弁当(夕食用)、介護保険で利用できる
(2)訪問看護
(3)訪問介護(ホームヘルプ)、自治体が行っている
(4)高齢者のゴミ出し支援(自宅の玄関先までゴミを回収しに来てくれる)

という順番で少し時期をずらしながら導入する作戦を立てていた。

一度にすべて導入しなかったのには、いくつかの理由があった。

「認知症がある場合、生活の変化は混乱の原因になりやすいんです。事情が許せば、義両親の様子を見ながら、慎重にサービスを導入することをおすすめします」

ケアマネ・鈴木さんからはそうアドバイスされていた。介護サービスがひとつでも入ると、そこから生活の様子や本人たちのこだわりがわかるので、それをふまえた調整もできるという。

宅配弁当を導入したら、さっそく義両親から「弁当は毎日ではなく、週1回にしてほしい」という反撃が飛んできた。弁当に関してはなんとか、毎週月曜~木曜の週4日で着地したけれど、他のサービスはどうなるか。やはり、回数調整要求などが突きつけられるのか。

戦々恐々のなか、訪問看護がスタートした。

週2回、看護師さんが自宅を訪問し、服薬状況の確認や体温・血圧測定などのバイタルチェックを行う。これまで家族が担当するしかなかったお薬カレンダーのセットも、ここで看護師さんにバトンタッチだ。ようやく、ようやくあの重荷から解放される。ひゃっほぅ! と踊り出したい気分だった。

しかし、浮かれるのは早計だった。

「真奈美さん、すみません! おとうさまのお薬が行方不明です」
「おとうさまは『家のなかにドロボウがいて盗まれた』とおっしゃるのですが......」
「一昨日内科を再受診してくださったのですが、今日またお薬がなくなっています」

念願の「訪問介護」を開始したとたん、思わぬ「ドロボウ」が出現して...!?/別居嫁介護日誌 UP第27話.jpgもの忘れ外来で処方される薬と義母の甲状腺の薬は、クリニック横の薬局から訪問看護ステーションに直接届けてもう段取りをつけた。処方せんの発行から、お薬カレンダーにセットされるまで、義父母が手を触れるタイミングはない。そのため、飲み忘れることはあっても、途中で行方不明になる心配はない。

問題は、義父が自分で受診していた内科や泌尿器科の薬だった。 "薬ドロボウ"が出るたびに駆けつけるわけにもいかず、看護師さんからのSOSコールがあるたび、電話口で平謝り。看護師さんとケアマネさんが手分けして探してくれたものの、薬は見つかったり、見つからなかったり......。ついに看護師さんから往診の導入を進められた。

「おとうさまはしっかりされている部分もありますが、薬の管理や単独通院は難しいと思います。今後のことを考えると、内科だけではなく総合的に診てくれて、いざというとき駆けつけてくれる往診の先生をお願いするのはどうでしょうか」
私としては願ったりかなったりの提案だけれど、さて、どうやって義両親に切り出すか。

義姉から届いたLINEによると、義両親は《本人たちはきちんと管理しているつもりなので若干プライドが傷ついた様子》だったそう。
《薬のセット等で今まであまり遊びに行くことのなかった子供たちが突然頻繁に出入りするようになっていることに戸惑いがあります。「仕事があるのに申し訳ない」そして「まだ自力でやれるのに」という気持ちもあるようです》

戸惑う気持ちはわかる。わかるけれども "お薬ドロボウ"が大躍進中の今、「本人たちが自覚するまで......」と放り出すわけにもいかない。この認識のギャップをどう埋めるか。まだまだ課題はてんこもりなのであった。

●今回のまとめ
・介護サービス導入は家族が説得するより、医師など第三者に勧めてもらうとよい
・介護サービスが始まってからも、キーパーソンとしての「調整役」は続く
・医療や介護のプロの視点が加わることで、これまでわからずにいた課題・問題が明らかになることがある

【次のエピソード】これであの苦行から解放されるっ!大興奮の「偉大なる一歩」

最初から読む:「自宅のお金がなくなってるの...」義母から「夫を疑う」突然の電話が...?/別居嫁介護日誌

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イラスト/にのみやなつこ

 

島影真奈美(しまかげ・まなみ)

フリーのライター・編集として働くかたわら、一念発起し、大学院に進学した数ヵ月後、夫の両親の認知症が同時発覚。なりゆきで介護の采配をふるうことに。義理の関係だからうまくいくこと、モヤモヤすること、次から次へと事件が勃発。どこまで理解しているのか謎ですが「ぜひ書いて!」という義父母、義姉、夫の熱烈応援(!?)に背中を押され、この体験記を書き始めました。朝日新聞「なかまぁる」にて「もめない介護」を連載中。

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