「なぜ私だけが...」夫への不満を抱えてたどり着いた先は...?/別居嫁介護日誌

「妊娠・出産・育児」をすっとばして、いきなり「介護」が始まった! 離れて暮らす高齢の義両親をサポートしている島影真奈美さん。40代にさしかかり、出産するならタイムリミット目前――と思っていた矢先、義父母の認知症が立て続けに発覚します。戸惑いながらも試行錯誤を重ね、いまの生活の中に無理なく介護を組み込むことに成功。笑いと涙の介護エピソードをnoteマガジン『別居嫁介護日誌』からご紹介します。なんとなく親の老いを感じ始めた人は必読!


こんにちは、島影真奈美です。今後どのような介護体制で進めていくかをケアマネジャーさんとしっかり話し合えた前回。どの介護サービスをどのような頻度で利用していくか、具体的な話ができたことで、少しずつ見通しが立ってきました。なのに、どうにも気分が晴れない。ここは思い切って遠出をすることで、気持ちの立て直しをはかることに......!

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認定調査の翌日からは名古屋で開催される学会に参加するために東京を離れた。といっても、学会発表をするわけではなく、興味があるシンポジウムや口頭発表をつまみ食いで見学。2泊3日で夜は連日飲み会がある、半分観光旅行のようなノリだった。

こまごまと積み残していた仕事を片づけていたら、なかなか出発できず、名古屋に着いたのは夜の21時過ぎ。それでも、初日の飲み会には合流できて、手羽先に味噌カツ、ひつまぶし......と"名古屋めし"をたのしんだ。

スケジュールも詰まってるし、やっぱり行くのやめようかと直前まで迷っていた。東京-名古屋間なんて新幹線に乗ってしまえばあっという間。なのに、それすらも面倒にも感じていた。それでも、名古屋行きを強行したのには理由があった。

一連の手続きのために、時間をやりくりするのはキーパーソンとしてやらざるを得ないことだと思っていたし、無理はしていないつもりだった。「できる範囲で、効率よく動いている」という自負もあったのだけれど、釈然としない気持ちもじわじわ生じ始めていた。

もの忘れ外来の受診や地域包括支援センター、介護サービス事業者との打ち合わせは基本、平日の日中に集中する。どうしても時間がとれなければ、相談に乗ってもらえるのかもしれないけど、フリーランスで仕事をしているおかげで、多少は融通がきく。少しでも早く打ち合わせをして、体制が整えば、その分早くラクになれる。そう信じて、必死に予定を調整した。

それは私にとっても「正しい選択」のはずだった。でも、同時に「なぜ、私だけが?」という疑問も沸いてくる。

夫に「なんか、しんどくなってきた......」と愚痴ると、「無理しなくていいよ」と言われ、腹立たしさが募った。本当にそう思うなら、「僕が代わりに手続きに行こうか」ぐらい言え!! とイライラした。そして、介護の手続きが一段落したら、次は離婚かな......という思いも頭をよぎった。

そこで、ハタと気づいた。私ってば、もしや結構追い詰められている? 我ながら話が飛躍しすぎている。

不満があるなら、夫に言えばいいようなものだが、言えない。どう伝えればいいのかわからない。「なぜ私だけが...」夫への不満を抱えてたどり着いた先は...?/別居嫁介護日誌 UP第25話別居嫁介護日誌.jpg


キーパーソンに立候補したのは自分で、少しでも早く手続きが終わるように予定をギュウ詰めにするのを選んでるのも自分。「選んだのは自分」というヘンな潔さが発動して、身動きがとれなくなっていたのだと思う。でも、当時はそんな自分の内面の動きは軽やかにスルーして、ひたすら、夫の鈍感さに腹を立てていた。

冷静に振り返ってみれば、「しんどくなってきた」に対して、「無理しなくてもいいよ」と答える夫の行動パターンは昔から変わらない。

私が夫に伝えるべきだったのは漠然とした愚痴ではなく、「代わりに手続きに行って欲しい」という具体的なリクエストだった。そうすれば、そのときできる最大限のことをやってくれたはずだ。

でも、当時は夫に何をどうしてほしいのか、私自身もよくわかってなかった。このつらさがどこから来てるのか、何が不満で、どうすればラクになるのか。正体をつかめずにいた。何かを夫に頼み、困った顔をされるのもイヤだし、ましてや断られるなんてごめんだと、頼む前から決めてかかっていた。やっぱり、精神状態は着々とよろしくないほうに向かっている。

義父や義母に対しては「認知症だからしかたがない」と思える。でも、夫に対しては、どんどん許せない気持ちがふくれあがってきていることに薄々気づいてもいた。

私がこんなに不安なのに、困ってるのに、夫は何も変わっていない。
何事もなかったように仕事をして、飲み会に行き、ふつうに暮らしている。
そのことがどうにも腹立たしかったのかもしれない。

私ばっかり、バカみたい。でも、そんな風に被害者ぶってる私はもっとバカみたい。

この被害者意識に飲み込まれてしまうと、ロクなことにならないという確信はあった。一刻も早く逃げ出した方がいい。一時的にでも離れたほうがいい。名古屋での学会は格好の逃亡先だった。

夫には「名古屋で学会があるから2泊3日で行ってくる」と伝えてあった。「行ってもいい?」とはあえて聞かなかった。難色を示されても、強行突破するつもりだった。

夫は拍子抜けするぐらい、機嫌よく送り出してくれた。
「ここのところ大変だったから羽をのばしておいでよ。名古屋のおいしいもの、いっぱい食べられるといいね!」

大物なのか、アホなのか............。介護をめぐる夫婦の温度差にはその後もしばらく悩まされることになる。

●今回のまとめ

・「なぜ、私だけが?」の不満は、自分自身からのSOSの可能性大
・介護中だからこそ、あえて遠出をしたほうがいい局面もある

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イラスト/にのみやなつこ

 

島影真奈美(しまかげ・まなみ)

フリーのライター・編集として働くかたわら、一念発起し、大学院に進学した数ヵ月後、夫の両親の認知症が同時発覚。なりゆきで介護の采配をふるうことに。義理の関係だからうまくいくこと、モヤモヤすること、次から次へと事件が勃発。どこまで理解しているのか謎ですが「ぜひ書いて!」という義父母、義姉、夫の熱烈応援(!?)に背中を押され、この体験記を書き始めました。朝日新聞「なかまぁる」にて「もめない介護」を連載中。

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