これであの苦行から解放されるっ!大興奮の「偉大なる一歩」/別居嫁介護日誌

「妊娠・出産・育児」をすっとばして、いきなり「介護」が始まった! 離れて暮らす高齢の義両親をサポートしている島影真奈美さん。40代にさしかかり、出産するならタイムリミット目前――と思っていた矢先、義父母の認知症が立て続けに発覚します。戸惑いながらも試行錯誤を重ね、いまの生活の中に無理なく介護を組み込むことに成功。笑いと涙の介護エピソードをnoteマガジン『別居嫁介護日誌』からご紹介します。なんとなく親の老いを感じ始めた人は必読!


こんにちは、島影真奈美です。訪問看護がスタートしたことで、実は義母だけではなく義父も、薬の管理や服用に不安があることが判明した前回。さらに健康保険証を自分たちで管理するのが難しそうだということもわかってきました。なくすたびに再発行するのも面倒だし、できれば預けてほしいけれど、義父母としては自分たちで管理したい気持ちでいっぱいです。どうすれば、預けてもらえるのでしょうか......?

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要介護認定の結果が出るのを待ちわびていた2017年7月初旬。夫の実家では"女ドロボウ"旋風がいよいよ勢いを増していた。

義父の降圧剤が行方不明になり、「盗まれた!」という騒ぎになったかと思ったら、今度は義母の健康保険証が姿を消した。訪問看護師さんの話によると、「かかりつけの整形外科に行きたいのに、健康保険証を盗まれてしまって行けない」「おかげで腰の痛みがとれない。あのドロボウのせいで......」と義母が訴えているという。

この女ドロボウの姿を見たと言っているのは義母だけ。しかし、義父もすっかりその存在を信じているようで、「2階のドロちゃんにはほとほと困り果てていますよ」なんてため息をついて見せたりもする。

そしてついに、義父の健康保険証も姿を消した。実家を大捜索し、引き出しの奥からひょいっと出てきたが、義父母に渡せば、早晩また紛失してしまうに違いない。さて、どうするか。

「健康保険証、お預かりしてもいいですか?」
思い切って義両親に切り出してみた。義父は渋い顔で考え込んでいる。義母も気乗りしない様子だ。

「そうねえ......ありがたいお話だと思うんだけど、ちょっと困るわねぇ......」
「......どのあたりが困りそうですか?」
「今ね、整形外科に毎日通ってるの」
「え? 毎日ですか」
「そうなの。ほら、腰がこんなでしょう? やっぱり毎日行かないとね」

義母は健康保険証を自分で持っていたいと言って譲らない。義父も同意見のようだ。

持っていても、なくすだけじゃん! またドロボウに盗まれたって言うんでしょ?
四の五の言わずに、さっさと預けてよ。もう! という言葉がのどもとまでこみあげる。
でも、グッと飲み込む。そんなことを言われたら、意地でも預けたくないと思うはず。
私が義両親の立場だったら、きっとそう。

私としてはぜひとも健康保険証を預けていただきたい。
もの忘れ外来の受診に付き添うたびに、タクシーを待たせて部屋中を探し回るのは避けたい。
でも、義母は健康保険証を預けたくない。手元に健康保険証がないと、整形外科に通うのに不便だからだ。

......ということは、保険証がなくても、受診できるようにしちゃえばオッケー?

義母のかかりつけだという近所の整形外科クリニックに電話をかけ、相談してみることにした。

「すみません。親が高齢になってきて、保険証の管理が難しくなってきているようでして......」
「ご連絡いただいて助かりました。前回も前々回も保険証をお持ちではなかったので、もしかしたら紛失されて再発行が必要なのかもと、先生とも話をしていたところでした」

保険証、持って行ってなかったんかい!

電話をかけたおかげで、新たにわかったことがいくつかあった。義母は「毎日受診している」と言っていたけれど、実際には月に1~2回程度だったこと。受付で「健康保険証をお願いします」と言われても、キョトンとして診察券を繰り返し見せるといったことが何度かあったこと。ただ、会計を払わずに帰ってくることはまだなく、長年通っていたこともあり、大目に見てもらっていたらしい。

整形外科の受付スタッフと相談し、今後は義母が受診するたびに連絡をもらう手はずをとりつけた。健康保険証は後日、私がクリニックに持参し、提示する。クリニックには私の携帯番号を伝え、万が一、支払い忘れなどが発生したときは連絡をもらえるよう、お願いした。

こうなったら、義父母のかかりつけのクリニックに総当たりで連絡をしてしまおうと、診察券をもとに次々に連絡を入れた。近所で開業しているクリニックはおおむね好意的で、健康保険証をあとから見せに行くという方法で構わないと言ってくれた。泌尿器科と甲状腺内科については総合病院への受診が必要なため、こちらは別途、付き添うことに決めた。

これにてオールクリア。義父母の「健康保険証を手元に持っておかないと困る理由」はひとまず、なくなった。

「......というわけでおとうさん、おかあさん、健康保険証がなくてもこれまで通り、病院に行けるようにしたので保険証をお預かりしていいですか?」
「あら、そうなの? それは便利ね。ありがたいわ」
「どうもありがとう。よろしくお願いします」

今度はすんなり健康保険証を渡してもらえた。イエス!!!

これであの苦行から解放されるっ!大興奮の「偉大なる一歩」/別居嫁介護日誌 UP28話.jpgよくよく考えると、もの忘れ外来受診に加えて、さらにほかの診療科への通院付き添いが増えるのはけっこう面倒な状況だ。ラクになるどころか、またもや手間が増えている。ただ、少なくとも、保険証探しの苦行からは解放された。それがうれしく、ありがたく、「偉大なる一歩を踏み出しました!!!!!!」と大興奮だったのである。

●今回のまとめ
・健康保険証など「紛失するとマズいもの」は、管理をバトンタッチしてもらったほうがお互いストレスが減らせる
・ただし、「管理できなくなったから」という理由は親のプライドを傷つけ、反発の原因になるので注意が必要
・親の気持ちをヒアリングした上で、親が納得しやすいアプローチを探るのがおすすめ

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イラスト/にのみやなつこ

 

島影真奈美(しまかげ・まなみ)

フリーのライター・編集として働くかたわら、一念発起し、大学院に進学した数ヵ月後、夫の両親の認知症が同時発覚。なりゆきで介護の采配をふるうことに。義理の関係だからうまくいくこと、モヤモヤすること、次から次へと事件が勃発。どこまで理解しているのか謎ですが「ぜひ書いて!」という義父母、義姉、夫の熱烈応援(!?)に背中を押され、この体験記を書き始めました。朝日新聞「なかまぁる」にて「もめない介護」を連載中。

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