「妊娠・出産・育児」をすっとばして、いきなり「介護」が始まった! 離れて暮らす高齢の義両親をサポートしている島影真奈美さん。40代にさしかかり、出産するならタイムリミット目前――と思っていた矢先、義父母の認知症が立て続けに発覚します。戸惑いながらも試行錯誤を重ね、いまの生活の中に無理なく介護を組み込むことに成功。笑いと涙の介護エピソードをnoteマガジン『別居嫁介護日誌』からご紹介します。なんとなく親の老いを感じ始めた人は必読!
こんにちは、島影真奈美です。義父のみならず、なぜか義母までもの忘れ外来に連れ出すことになった前回。不審がってあれこれ質問をする義母に対して、義父も夫も知らんぷりを決めこみます。そ、そんな......。気まずさに耐えきれなくなった頃、ようやくもの忘れ外来に到着しました。果たして、義母は素直に診察を受けてくれるのでしょうか。
前の記事「行き先はもの忘れ外来なのに「お食事に行くの?」と質問攻めの義母。もう助けて~/別居嫁介護日誌(12)」はこちら。
「ねえ、ここは病院みたいだけど、どなたか具合が悪いの?」
もの忘れ外来専門クリニックに到着した途端、義母は不機嫌になった。ドアに書かれた「老年精神科・もの忘れ外来」という単語をめざとく見つけ、読み上げたりしている。義母は86歳という年齢からは想像もつかないほど、目も耳もいい。
受付で「認知症の初診ですね!」と、よく通る声で確認されたときは、気が遠くなった。やめてくれ。義母がへそを曲げて、「帰る!!!」とでも言い出したらどうしてくれるのか。こわごわ振り向くと、夫も同じようなことを考えていたようで、顔をこわばらせていた。義母は知らん顔でテレビを眺めている。
到着から30分ぐらい経った頃、「まずは看護師がお話を伺いますのでご家族の方、こちらへどうぞ」と声をかけられた。義父が瞬時に立ち上がり、スタスタと診察室に入っていく。
慌てて後を追う。義母を待合室にひとり残すのも心配なので、私が義父の付き添い、夫は義母の見守りと二手に分かれた。
「彼女は若い頃から英語が好きだったんですが、子どもの頃からピアノもやっていまして。嫁入り道具としてピアノを持ってきたんですな。ところが、私が新入社員で赴任したのが九州だったものですから、そこまでピアノをどうやって運ぶかという話になり、陸路は難しいというので船で運ぶことになりまして......」
何がどうしてそんな話になったのか。たしか、診察室に入ったとき、看護師さんに聞かれた質問は「日常生活の困りごと」だったはずなのに、気づけば、義父の独壇場。新婚ラブストーリーが繰り広げられていた。以前からうっすら気づいてましたが、おとうさん、ラブラブ......っていうか、ベタ惚れのベタ甘オットですよね!?
聞き上手の看護師さんを相手に、いつもとは別人のように、ニコニコと機嫌良く、しゃべりまくる義父。その合間に、なんとか気がかりな症状を看護師さんに伝え、家族面談は終了。待合室に戻ると、義母はいよいよ不機嫌オーラ全開。そこからさらに、30分ほど待ち、もう限界かと思った頃、ようやく医師の診察が始まった。
「お名前はなんとおっしゃるんですか?」
「今日は何年の何月何日ですか? 何曜日ですか?」
医師はひとこと、ひとこと、はっきりと区切りながら、問いかける。義母は(年寄り扱いしないでくださる?)とでも言いたそうな表情で、早口で答えていく。機嫌の悪さを隠そうともしない。
医師はさりげなく、問診のなかに認知機能の診断をするための質問を織り交ぜていく。
いくつかの質問の後、義母が答えに詰まる瞬間があった。でも、すぐさまキッと医師をにらみつけ、「人を試すような質問は好きではありません」と、異議を申し立てる。
義母が凄まじく腹を立てているのは傍から見ても明らかで、この怒りを誰がどうおさめるのか、考えるだけで気が重かった。
ひと通り問診が終わった後、待合室で待つよう言われ、義母は診察室を出て行った。ほかの家族が残っていることに対して一瞬、怪訝そうな顔をしたものの、あまりに腹が立ちすぎて、その場を去りたい気持ちのほうが勝ったようにも見えた。
診察室には義父と夫、そして私の3人が残り、診断結果を聞くことになった。
「結論から言うと、中程度のアルツハイマー型認知症です。MRI撮影の結果を見てからの確定診断となりますが、ほぼ間違いありません。すぐにでも治療を始めたほうがいいでしょう」
やっぱり、と思う気持ちも半分。でも、動揺しなかったと言えば、ウソになる。中程度って!これからどうなるの。って今更ですけど、やっぱり、介護が始まるってことですよね。
「これまではご夫婦でがんばってこられて、それは素晴らしいことですが、これからは同じ、というわけにはいきません。介護保険の申請手続きを進め、なるべく早く訪問介護など介護サービスを利用できるよう、そこはお子さんたちがしっかりサポートしてください」
医師は次々と最後通牒を突きつける。もう逃げられない。結婚しても、しなくても、ずっとずっと自由だったのに。いつまでもそんな日が続くとは思ってなかったけど、でも、今なのか。今、それが終わるのか。
介護のキーパーソンに立候補したときに覚悟は決めたつもりだったけど、ちっとも腹をくくれてなんかいなかった。そんなことに今更気づくなんて、マヌケすぎる......と、落ち込みかけたところに、医師からさらなる一撃がやってきた。
「みなさん、薄々お気づきかもしれませんが、おとうさんもおそらく、そうだと思います。次回はできれば、おとうさんにも受診していただくことをお勧めします」
慌てて夫と義父を見ると、とくに驚いた様子もなく、神妙な顔でうなずいていた。えー!!! そうなの?
●今回のまとめ
・受診をきっかけに、家族が知らなかった親の姿が見えてくることもある
・認知症の検査をされると、たいていの人が不機嫌になる
・親のうち、一方の異変が顕著だと、もう一方の異変は見落としがち
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イラスト/にのみやなつこ