4000万超えも! 有料老人ホームの高額な前払金、退去したら戻ってくるの?/介護施設

男性の平均寿命は80.98歳、健康寿命は72.14歳、女性の平均寿命は87.14歳、健康寿命は74.79歳です(厚生労働省の2016年の調査より)。健康寿命とは"日常生活に制限のない期間の平均"のこと。平均寿命と健康寿命との差は、裏を返せば日常生活に制限がある期間のことで、おおよそ10年あります。この10年をどこで、どのように暮らすのか。自身にとって、また親や子ども、夫・妻など家族にとって重要な問題です。

そんななかでの選択肢の一つが「介護施設」です。特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など昨今は種類が増えて利用者の選択肢が広がっています。それぞれの施設のメリットやデメリット、施設を選ぶときのポイントなどを、ケアタウン総合研究所の高室成幸さんに伺いました。

4000万超えも! 有料老人ホームの高額な前払金、退去したら戻ってくるの?/介護施設 pixta_47941436_S.jpg

前の記事「近くに自然がある? 駅近? 施設探しは求める条件を整理してから始めよう/介護施設(9)」はこちら。

 

有料老人ホームのお金の仕組みを理解しましょう

有料老人ホームに入居すると、どのような費用がかかってくるのでしょう。
まず、有料老人ホームには入居時に支払う前払金(入居一時金)があります。それ以外に月々かかる費用として、家賃や管理費、水道光熱費、食費、介護サービス費(自己負担1割~3割)の支払いが必要です。おむつなどの消耗品、施設のイベント参加費など別途かかるものもあります。前払金だけでなく、月々支払いが必要な金額も施設選びには重要です。また、支払方法も複数あり初心者には分かりにくいので、システムの確認が必要です。

「近年は前払金が不要な施設も増えています。初期費用を抑えたい場合はそういった施設を探すのも一つの方法です。ただし前払金が不要だったり低額な施設は月々の利用料が比較的高い、社員寮やビジネスホテルだった建物の改築型で高齢者には使いづらいなどがあるので、十分に吟味しましょう」(高室さん)

 

◆初期費用を高くしているのは「前払金」の存在

前払金とは、原則として家賃相当額の一部、または全部を入居時に支払うもの。2012年の老人福祉法改正により、施設は権利金(施設を終身で利用する権利のために支払うお金)を受領できなくなりました。しかしまだ前払金の金額は施設により開きがあり、数十万円のところもあれば数千万円にのぼるところもあります。前払金は10~30%が初期償却(退去時に返還されない金額)されます。

 

◆支払い方法は3タイプ

(1)月払い
利用期間中、家賃を毎月支払う方法。
初期費用が抑えられますが、長期入居になる場合は総額が高くなります。

(2)一部前払い+一部月払い
入居時に想定居住期間(※)に必要な家賃の一部を前払いし、残りを月払いで利用期間中支払う方法。想定居住期間は家賃が発生しない、または一部を支払いますが、想定期間後は月払いの場合よりも少なく、生存率などに応じて金額が決まるため徐々に安くなります。

(3)全額前払い
想定居住期間を勘案して入居時に家賃全額を一括で支払う方法。
終の棲家として、生涯にわたりその施設で生活することを前提としています。家賃を全額支払うために初期費用は高額になりますが、想定居住期間を超えても家賃は発生しないため、居住が長期間になる場合は総額として費用を抑えることができます。

 

◆高額な「前払金」。退去時は戻ってくる?

全国有料老人ホーム協会の調べでは、一部前払い方式の場合の前払金は、最も低額なところでは10万円、高いところでは4000万円を超える施設もあり、平均は約595万円(85歳・要介護3で入居した場合)となっています。

ところが入居期間は人それぞれ異なります。退去した場合(例:長期入院、他施設に転居、死亡など)、支払ってしまった前払金はどうなるのでしょう?

まず戻らないお金は前述した「初期償却分」です。そして残りの金額から、各施設が設定した初期償却率、償却年月数(想定居住期間)によって算出された金額、さらに原状回復費用が控除された金額が退去時に戻ることになります。

1年で償却される金額は、初期償却分を除いた前払金を償却年月数で割ったものです。
例えば、前払金600万円、初期償却率10%、償却年月数10年とすると...
○初期償却分 ⇒ 600万×10%=60万円
○1年間の償却額 ⇒ (600万-60万)÷10=54万円
○1年後に退去した場合の返還金 600万-60万-54万=486万円
○5年後に退去した場合の返還金 600万-60万-270万=270万円
○10年後に退去した場合の返還金 600万-60万-540万=0円
  
有料老人ホームのトラブルで多いのが、退去時の返還金の問題です。
「初期償却率や償却年月数は施設により設定が異なります。契約時に初期償却はどれくらいなのか、返還金はどのように算出されるのかをしっかり確認しましょう」(高室さん)

ただし、想定居住期間を超えて居住した場合は、すべて償却したことになるので返還はされません。

 

◆入居者のお金を守る「短期解約特例(90日ルール)」

有料老人ホームには、入居後3カ月以内に解約した場合や入居者が亡くなって契約が終了した場合には、前払金を返還する義務があります。
入居日数分の利用料(家賃など)や原状回復費用を控除し、残りは全額返還しなければなりません。3カ月の起算日は入居の翌日になります。

 

次の記事「スタッフの入れ替わりが激しい介護施設は要注意。「お試し入所」の活用を/介護施設(11)」はこちら。

取材・文/ほなみかおり

 

 

高室成幸(たかむろ・しげゆき)さん

1958年京都市生まれ。日本福祉大学社会福祉学部卒。ケアタウン総合研究所代表、日本福祉大学地域ケア研究推進センター客員研究員、日本ケアマネジメント学会会員。介護施設、都道府県や市町村のケアマネジャー、地域包括支援センターなどを対象に研修を行い、施設職員対象も手掛ける。『図解入門ビギナーズ 最新介護保険の基本と仕組みがよ~くわかる本』(秀和システム・監修)、『もう限界!シリーズ全10巻』(自由国民社・監修)、『新・ケアマネジメントの仕事術』(中央法規出版・著)など著書多数。

この記事に関連する「ライフプラン」のキーワード

PAGE TOP