ご両親が元気なうちは、「介護なんて当分先のこと」と他人ごとのようにお考えの方も多いでしょう。しかし介護は突然やってきます。想定もしなかった事態に戸惑い、余計な負担まで背負い込んだ結果、心身の健康を害してしまうこともあるのです。突然の事態に動揺しないためにも、いまから準備をしておくことが大切です。
そこでうまく乗り切るための心構え、準備しておくべきこと、介護サービスを受ける方法、介護サービスの仕組み・精神面・金銭面のアドバイス、予防などについて、淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博先生に教えていただきました。
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男性は70歳、女性は74歳を過ぎたら要介護になってもおかしくありません
日本には現在、100歳を超える高齢者はおよそ6万9,785人います(厚生労働省の高齢者調査2018年)。世界でも有数の長寿国になりましたが、その陰で介護問題に直面しているということです。そこで気を付けたいのが、平均寿命と健康寿命です。平均寿命とは、0歳児が平均何年生きられるかを示した年数で、健康寿命とはその生きられる年数の中で健康上の問題で不便を感じることなく生活できる平均期間をさします。
つまり、平均寿命から健康寿命を引くと、病気などの問題を抱えて生活しなければいけないおおよその期間が分かるのです。図を見ると、男性80.98歳(平均寿命)―72.14歳(健康寿命)=8.84年の差となります。その期間は、誰かの手助けを必要とする可能性が高いのです。男性は70歳、女性は74歳を過ぎたら明日介護になってもおかしくないことをしっかりと理解しましょう。
介護される側・する側双方が快適に過ごせることが大切
介護をするには、労力が必要となります。1人ですべてを抱え込もうとすると、精神的にも身体的にも追いつめられてしまいます。1人だけが負担をする必要はありませんので、そのような状態を回避するためにも、兄弟や親族と今後の方針や役割の分担について話し合うことが大切です。
また実際に介護を始めてから、負担を感じたら周りに相談できるような環境を作っておきましょう。介護する側が疲れて倒れてしまっては仕方がありません。居住地区の地域包括支援センターなどで相談に乗ってくれるので、積極的に利用するのも一つの方法です。介護される側・する側の両方の負担が少なく快適に過ごせることが大切です。
介護には月いくら必要かを知って、準備しておきましょう
要介護状態となったら、毎月どれくらいの金額が必要になるのでしょうか?公益財団法人生命保険文化センターによる調査では、介護の費用は平均1カ月7.8万円で、約3割が10万円以上となっています。介護サービス利用料と、おむつ代や外出介助費用など、保険外で全額自己負担となる在宅介護に関する費用は、要介護度が上がるにつれて、高くなります。
年金だけで生活することは難しいのが現状で、厚生年金なのか国民年金なのかで、いくら貯蓄が必要なのかも違ってきます。厚生労働省が発表した2018年度の「標準的なモデル世帯」における年金額は、国民年金が1カ月6万4,941円、夫が厚生年金を受け取り、妻が専業主婦の夫婦では1カ月16万6,863円~22万1,277円となっています(※勤務先により異なる)。
これを想定すると、厚生年金の方は1人当たり700万円程度の貯蓄があるといいでしょう。月に5万円ほどきりくずして、何年暮らせるか計算しましょう。また、国民年金の方は、1人当たり1,000万円程度の貯蓄を目指してください。ご夫婦の場合、1,700万円程度の貯蓄が理想的です。
さらに大きな病気を患った際の医療費として200万円を余分に見積もっておくといいでしょう。老後に仕事を辞めたのちに貯金が尽きてしまい、貧困生活を余儀なくされるケースも増えているので、ぜいたくをしないことも大切です。
ご両親にいくら貯蓄があるかなど聞きづらいかもしれませんし、聞くと自分の財産を狙っていると思われる可能性もあります。そんなときは、介護費用の本を持っていってさりげなく聞き出しましょう。
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取材・文/中沢文子