大人世代で心配になってくるのが老後。生活費などの資金や健康に対して不安はつきものです。そんな不安に立ち向かえるヒントを与えてくれる、森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」をお届けします。今回は、「LINEを使った投資詐欺にご用心」がテーマです。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年1月号に掲載の情報です。
私を騙(かた)った詐欺事件が起きています
札幌テレビが次のようなニュースを伝えました。
「北広島市に住む70代の男性が現金200万円をだまし取られる特殊詐欺事件が発生しました。警察によると2023年10月中旬、男性がインスタグラム(※1)上で投資に関する広告を見つけクリックしたところ、『森永卓郎を名乗る人物』と連絡が繋がりました。その後、男性は『森永卓郎を名乗る人物』から投資関連の学習会のアシスタントをしている『佐藤美樹を名乗る人物』を紹介され、さらにLINEのグループに誘導されました。投資関連の勉強会に参加しているうちに、男性は『佐藤美樹を名乗る人物』から、金の取引に関する話を持ち掛けられ、これを信じた男性は11月8日に、銀行窓口で現金200万円を『ALYSSAと名乗る人物』から指定を受けた口座に振り込んだということです。不審に思った男性の妻が話を聞いたところ詐欺に気づき、警察に相談したということです」。
実は、これと同じようなスマホ広告をきっかけとした特殊詐欺は、この半年ほど続いています。
まず、フェイスブック(※2)やインスタグラムに著名人の写真入りで、完全無料の投資アドバイスという広告が掲載されます。
登場する著名人は、私だけでなく、堀江貴文氏や前澤友作氏、髙橋洋一氏、岸博幸氏、田村淳氏など様々です。
その広告をクリックするとグループLINEへの招待コードが送られてきます。
グループLINEは、招待された人だけが参加できるので、一般の人はチャット(※3)をみることはできません。
そこで、チャットの主宰者(例えば偽物の私)が個別株の推奨をしてきます。
それが2度、3度と値上がりすることで、参加者はすっかり信じ込んでしまうのです。
最近は、株の代わりに、値上がりトレンドが続く金(ゴールド)投資も使われます。
そこでチャットの主宰者が、確実に値上がりが見込まれる「HEO」を買わないかと持ち掛けてきます。
水素エネルギーを推進するための仮想通貨で、参加者限定で購入することができるものです。
もちろんHEOという仮想通貨は存在しませんが、これを扱う架空の取引所には毎日HEOの価格が表示され、1カ月に3~5倍のペースで価格が上昇していきます。
それをみて追加購入する人も多いのです。
そして1~2カ月後、主宰者がHEOの払い戻しを解禁するのですが、解約するには5%の手数料が必要だと言ってきます。
例えば1000万円を投資して、2カ月後には、それが1億円に値上がりしていますから、その5%は500万円になります。
そして、安心させるために、解約手数料を支払えば、著名人と直接会える講演会に招待すると言ってくるのです。
もちろん、実際には講演会の開催予定などなく、開催日には突然LINEグループが閉鎖され、その後連絡が一切取れなくなる。
これが、基本的な詐欺の手順です。
こうした詐欺は、私のところに相談メールがきただけで100件以上、被害額は総額で1億円を超えています。
そのなかには、老後のために一生懸命貯めてきたお金も含まれています。
冷静に考えれば、これが詐欺だと気づくはずです。
まず、私が無料で見知らぬ人に投資アドバイスをするはずがないですし、私は投資顧問業のライセンスを持たないので、そんなことをしたら法律違反になります。
HEOという仮想通貨が存在するかも、ネットで調べればすぐに分かります。
主宰者からのLINEメッセージも日本語がおかしいので、海外拠点の詐欺だと分かるはずです。
その他にもおかしなことはたくさんあるのですが、多くの人が騙されてしまうのは、人間、欲の皮が張ると、冷静な判断ができなくなるからでしょう。
少なくとも、投資をする場合には、周囲の人に相談してからにするというのを大原則にすべきです。
※1 インターネット上で、写真やメッセージなどを掲載して共有できるサービス。
※2 インターネット上で、メッセージや記事、写真などを掲載して共有できるサービス。
※ 3 インターネット上で行う文字による会話のこと。
リスクを避けコツコツ貯めるが賢明
そして最近私が強調しているのは、中高年以上になったら「投資はやめましょう」ということです。
それは、株式や投資信託などのまともな金融商品についても同じです。
未来のことは金融の専門家にも分かりません。
そして、値動きのある金融商品は、価格が暴落したり、紙くずになることもしばしばあります。
若いうちなら、裸一貫からやり直すこともできますが、中高年以上はそうはいきません。
だから、中高年以降は、欲を張らずに、元本保証のある金融商品でコツコツ貯めるべきだと思うのです。
もう一つ、フェイスブックをはじめとしたネット広告は、新聞やテレビ、雑誌と比べて審査がとても緩いという事実です。
それどころか、私を含めて名前を無断使用された人たちがいくら抗議をしても、いまだに詐欺広告を掲載し続けています。
警察は被害届を受理はしてくれますが、海外拠点の詐欺グループを、いまだに特定できていません。
せめて、本稿の読者は、こうしたスマホ広告の投資詐欺にひっかからないように気を付けて欲しいと、心から願っています。
※記事に使用している画像はイメージです。