定年起業でしくじりシニアになるかも!?流行の「ライフシフト」にご注意を

老後資金に「2000万円の準備を...」と言われても、すぐに作れる人はなかなかいません。そこで、社会保険労務士歴20年の岡久さんが著した『2000万円もってないオレたちはどう生きるか―60歳からのリアル』(自由国民社)から、老後の不安を解消できる60歳からの生き方のヒントを連載形式でお届け。人生のシミュレーション、今こそやるべきです。

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いま流行の「ライフシフト」に共感できるか?

リンダ・グラットンというイギリス人学者の書いた『ライフシフト』という翻訳書が売れています。二年以上前に出版された本ですが、アマゾンではいまだにベストセラーです。その本の中で人生百年時代においては、「教育(学生)→仕事(社会人)→引退(老後)」というこれまでの三つのステージの人生から、新しいマルチステージの人生へとシフトしなければならないとしています。

つまり「教育→仕事→引退」という誰もが同じような人生を過ごす時代は終焉して、多くの人が転身したり複数のキャリアを積み重ねたりしていくマルチステージの時代に突入するというのです。何度も学び直し、転職したり、あるいは一時期には子育てに専念したり、さまざまな経験をしたりと、充電と発信を繰り返しながら、会社を超えた社会との関係を保ちながら生きていくような社会になるとしています。

著者のロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏は「長寿化する人生では、ある時は仕事に集中し、ある時は自分への投資に専念するなど、人生のステージを変えていく必要が出てきます。おのおのが人生を再設計しなければなりません」

さらに「長寿社会になると、多くの人が、ある時点ではインディペンデント・プロデューサー、すなわち組織から離れた独立生産者として働くようになると考えています」と語っています。

「インディペンデント・プロデューサー」とは、早い話が起業して独立するという意味でしょうが、一介の会社員が定年後に事業を起こすとなるとかなり大変です。

さらに、「エクスプローラー」と「ポートフォリオワーカー」という二つのマルチステージが紹介されています。

前者は日常生活から離れて旅をしたり新しい人に出会ったりして、自分を再発見する、つまり「自分探しをする人」といった意味合いで定義づけています。

後者は企業に勤めながら副業や社会貢献事業に精を出す「ダブルワーカー」のようなスタイルです。いずれもインパクトのある提言ですが、これまでの日本人社会にはない考え方です。しかし、果たしてどのくらいの人が共感し試してみようと思うのでしょうか......?

起業できる人ならとっくに独立している!

定年後の独立起業にしても、ダブルワーカーにしても、自分探しの旅にしても、これまでひとつの企業でコツコツと地道に働いてきた人にはそぐわないような気がします。

実は、何年かに一度はこんな「未来予測」や「提言」をする学者や評論家が現れて、それが流行することがあります。

以前、未来学者のアルビン・トフラー氏が『第三の波』という著書の中で、「人類はこれまで大変革の波を二度経験してきており、第一の波は農業革命、第二の波は産業革命と呼ばれるもので、これから第三の波として情報革命による脱産業社会(情報化社会)が押し寄せる」として、メディアで大きく取り上げられ、現在の「IT社会」を予測したのです。

先見の明がありましたが、予測は予測であって当時の世の中が変わるほどの影響力を持ったとはいえませんでした。

未来予測としては興味深いですが、それがどんな社会にも当てはまるということはならないのです。いわんや欧米の社会には適合しても、極東の島国の日本には当てはまらないことも多いのです。

ほぼ一言語・一民族の日本は世界的に見ると特異な社会といえるので、欧米人の学者が書いた未来予測などはほとんど役に立ちません。

「ライフシフト」に描かれた三つのステージで紹介されたポストも、定年前後の日本人の心にはいまひとつ響かないはずです。ましてや「ライフシフト」をしっかりと理解して、さらに試してみようとする気持ちはほとんど起こらないでしょう。

誤解を恐れずに言うと、日本人にとってはリスクが高い考え方ですので、すぐに流行に飛びつくことのないよう慎重に行動したほうがよいでしょう。

特に評論家やコンサルタントの中には、「定年起業」を勧める傾向があります。しかし、よく考えてみてください。本当に起業して成功する才能ややる気があるのなら、定年を待たずに退社して、新しい事業を始めているはずです。

その証拠に起業して成功している人と現在の自分を比較してみれば、その才があるかどうかわかるというものです。くれぐれもマスコミ特有のステレオタイプの甘い言葉に惑わされないようにする必要があります。

"定年起業"で"しくじりシニア"になるな!

金融機関には起業する人に対して、優遇してサポートしてくれる制度もありますが、これもビジネスなので、それなりの費用負担やリスクもあるということを理解するべきです。特に定年後に起業する際に借金をしたり、預貯金を取り崩したりしてはいけません。

金融機関は新規の取引先ということで、低金利で貸してくれるかもしれませんが、定年後ということで貸付期間も短くなるので、毎月の返済額も高くなります。病気や事故などチョッとしたトラブルで収入が滞ったら、すぐにパンクしてしまいます。これからは人生百年時代で余生が何十年もあるのですから、間違っても借金と預貯金の取り崩しはご法度です。

起業に関心の高い人の中には、借金をせずに預貯金もそのままで、年金収入だけで生活できるので大丈夫と思う人がおり、副業感覚で自分の会社を興し、ちょっとした小遣い稼ぎになればよいと考えるかもしれません。

しかし長年会社員でコツコツと仕事をして生きてきた人に、フリーの立場での営業力(仕事のもらい方)やプレゼン力などあるはずがありません。さらにお金の回り方などにも不馴れで、財務諸表などが読めない人もたくさんいます。

つまり、一般的な"定年人"には起業は「夢のまた夢」と考えたほうが無難といえます。

自分の願望と夢に目がくらんで"しくじりシニア"になってはいけないのです。

本当に自信と才能、そしてやる気と体力があふれているという人は除いて、少しでも不安があり独立や起業が難しいと考えたのなら、再雇用でも再就職でもよいので会社に残ることを優先するとよいでしょう。

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岡久(おか・ひさし)

社会保険労務士。シンクタンク岡事務所、ナイン・ヒル・パートナーズ株式会社代表。人材開発や働き方改革から労務管理までさまざまなコンサルティングを手掛ける。社労士歴&コンサル歴20年以上のプロ、関連分野の著書も多数執筆。

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『2000万円もってないオレたちはどう生きるか―60歳からのリアル』

(岡久/自由国民社)

「人生100年時代」と言われても、お金に仕事、住まいに健康と不安が多過ぎる!そんな心のざわつきが止まらないあなたのための現代社会サバイバル本。生活のダウンサイジング法や孤独の楽しみ方など、老後資金に2000万円も持っていない私たちがどう生きるべきか、たくさんのヒントを教えてくれます。

※この記事は『2000万円もってないオレたちはどう生きるか―60歳からのリアル』(岡久/自由国民社)からの抜粋です。

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